鬼麟
 なぜそんなことを聞くのかと、焦り出す蒼をついついからかいたくなってじーっとその顔を見詰める。困っている姿がいじらしく、わざとらしく首を傾げた。

「私に似ていたんでしょう? 他人の空似かもしれないけれど、そっくりさんなんてなかなか出会えないし。私も行って自分の目で見てみたいから、どこにいたか教えてくれる?」

 蒼たちと遭遇した場所はキャバクラやホスト、クラブなんかがある“夜の通り”だ。高校生が立ち入るような場所でないことくらい、彼らとて理解しているだろう。
 言い淀む蒼は回避しようにもレオが助け舟を出してくれるわけでもなく、口から零れるのは言葉に満たない音のみ。雑誌で顔を隠して肩を震わせているレオが視界にチラつくが、それでも焦っている蒼が可愛くて無視するのは容易い。

「見間違い! 見間違いだったんだよ! うん、似てなかったもん。全然、まったく、これっぽっちも似てなかった!」

「そう、蒼も見間違えることくらいあるよね。うん、でもやっぱり自分でも確認してみたいから教えてくれる?」

 諦めたフリをしてそう続ければ、ショックを受けたように涙目になる蒼。可愛いなと、頬をつつけば修人の陰に隠れてしまうのだから、修人も呆れたとばかりに私を見る。

「あまりいじめてやるな。行きてぇなら俺が連れて行ってやるから」

 そう言われてしまえば途端に冷めてしまうもので、丁重にお断りしておいた。
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