鬼麟
 困らせたかっただけであり、実際に行きたいとはまったく思っていないのだ。行ったところで私に“似ている”人物など見つかりっこないのだから、足を運ぶだけ無駄というもの。
 修人は物言いたげにこちらを見ていたかと思えば雑誌に視線を戻す。そこでようやく違和感の正体に気付き、あたりを見渡して訊ねる。

「そういえば倖を見ないけど、今日はいないの?」

 いつもなら諌めるのは彼の役目であるはずなのに、それがないことであんなにも蒼を困らせてしまったのだ。
 答えたのは肩を震わせて笑いを堪えたままのレオで、いつまで笑っているのかとイラッとする。

「八つ当たりしに行ってるよ......ブフッ」

 堪えきれずに若干漏れているが、冷ややかな視線を浴びせても効果はない。レオは私のことを知っているが故に可笑しいのだろうが、笑いものになってやると言った覚えはない。
 私の怒りのオーラを感じ取ったのか、両手を上げて降参のポーズをとるのだから、表立って怒れないのはなかなかストレスが溜まる。
 八つ当たり、と口内でその意味を噛み砕く。倖がそんなことをしなくてはならないという状況も心情も想像がつかなく、思い出してみても微笑むような姿しか浮かばない。
 首を捻る私の前に丸い宝石が2つ並べば、なんてことないとばかりに頬に指先が沈み込む。可愛さに危うさが混じる彼の表情に、思わずその指先を掴んでしまえばするりと逃げ、代わりに腕に絡みついて笑った。
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