鬼麟
「僕と同じだよ。倖もあるんだよ、そういうのがね」

「ただのストレス発散だからな〜」

 付け加えるレオはやれやれと溜息を吐く。
 ストレスが他人に可視化されることの方が稀だろうが、やはりあのいつでも綺麗に笑う彼からは想像がつかない。とはいえ、口ぶりからして女でどうこうするというわけでもなさそうだし、なにか他のことで発散しているのだろう。
 またも考え込もうとする私の不躾な想像を咎めるように、不意に雑誌が閉じられる音が部屋に響く。修人の表情は相変わらず何を考えているのか分かりづらく、それでも視線で制されれば蒼とレオも口を閉ざす。
 立ち上がった修人は奥の部屋へと行くついでに私の頭を撫で、「あいつの口から聞け」とだけ残していった。
 確かに人伝で聞くような類のものでは無いだろう。誰にだって何かしらの事情くらいあるものなのだから。
 
「ところで蒼、私が呼ばれたのってそっくりさんのことについて確認するためだけ?」

 腕に絡んだまま、ストラップがいっぱいついた携帯を弄っていた蒼。そのまま目を私に合わせると、眩しいくらいの笑顔で言う。

「それもあるけど、なっちゃんといたかったからだよ」

 そう、と素っ気なく返すものの嬉しさをかみ殺せるはずもなく、ニヤケてしまう頬は自覚していた。撫でると犬の耳が垂れるような幻覚さえ見えてしまうのだから、もはや弱いというレベルではない。
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