鬼麟
嗚咽すら出せなくなり、心の中で何度そう叫んだことか。
結局、私はあの場からも逃げ出したのだ。我が身可愛さ故に。
「私の手はね、ずっと真っ赤なまま。だから、倖たちに触れるのはすごく怖いんだ。綺麗なものを汚い手で触るなんて、到底許されることじゃないでしょう?」
触れる度、触れられる度、汚してしまうことが怖かった。また、何かを壊してしまうんじゃないかって思ったら、足が竦んで目の前が真っ暗になるような思いを隠していた。
まったくもって無関係の狼嵐を、私がいたからという理由だけで赤く染め上げるのは耐えられそうもなかったのだ。
「......倖は、少し優し過ぎるんだよ」
私の隣に移動した倖は、私の手を握ったままその目に涙を溜めていた。堪えきれなくなった1粒が、私の手の甲へと落ちてきて温かさに笑ってしまう。
「優し過ぎるから、全部受け止めようとして溜め込んじゃうんだ。だから苦しくなっちゃうんだよね」
さらりとした前髪に指先が触れ、黒い波を優しく撫でていく。
「倖はみんなが大事だから、それが壊れちゃうのが怖いんだよね。私をずっと警戒していたのもみんなのためなんだから、倖はなんにも悪くない。だから私に対する罪悪感なんて、要らないんだよ」
倖の涙がぼろぼろと零れ、私より背の高い彼がひどく小さく見える。
結局、私はあの場からも逃げ出したのだ。我が身可愛さ故に。
「私の手はね、ずっと真っ赤なまま。だから、倖たちに触れるのはすごく怖いんだ。綺麗なものを汚い手で触るなんて、到底許されることじゃないでしょう?」
触れる度、触れられる度、汚してしまうことが怖かった。また、何かを壊してしまうんじゃないかって思ったら、足が竦んで目の前が真っ暗になるような思いを隠していた。
まったくもって無関係の狼嵐を、私がいたからという理由だけで赤く染め上げるのは耐えられそうもなかったのだ。
「......倖は、少し優し過ぎるんだよ」
私の隣に移動した倖は、私の手を握ったままその目に涙を溜めていた。堪えきれなくなった1粒が、私の手の甲へと落ちてきて温かさに笑ってしまう。
「優し過ぎるから、全部受け止めようとして溜め込んじゃうんだ。だから苦しくなっちゃうんだよね」
さらりとした前髪に指先が触れ、黒い波を優しく撫でていく。
「倖はみんなが大事だから、それが壊れちゃうのが怖いんだよね。私をずっと警戒していたのもみんなのためなんだから、倖はなんにも悪くない。だから私に対する罪悪感なんて、要らないんだよ」
倖の涙がぼろぼろと零れ、私より背の高い彼がひどく小さく見える。