鬼麟
第1章
1.新しい学校
私にとって、転校とは人生で初めての経験だった。
新しい世界に何か期待のような気持ちがあったわけではなく、淡々とした気持ちで受け入れている自身を俯瞰しながら、未だ馴染めていない足元を見る。以前の学校の時のままの上履きには名前などなく、かといって新品というわけでもなく汚れが目に入った。
見上げると、前を行く担任となる人の背中があり、じっと背中を見つめる。逞しくもなく、華奢でもないその背中に、どこかで既視感を覚えたが恐らく気のせいであろうと思考の端へと追いやった。
空を見ようとして、今まで逸らしていた視線を窓へと向ける。
「割る生徒がいるんですよ」
こんな時代にも、と。
いつの間にか振り返っていた先生は、丁寧な口調とともに人の良さそうな笑みを浮かべて言った。
先生は若く、制服を着て混じってしまえばすぐにでも溶け込めそうだ。しかし、おっとりしているように見えて、どこか隙のないその雰囲気が違和感を覚えさせる。
不思議と興味を掻き立てられるその独特な空気に呑まれぬように、ほんの数分前に聞いた名前を思い出しつつ、それを舌に乗せて目を合わせる。
「深景先生」
一瞬だけ細められた瞳は測るようにして揺らいだ。しかし、彼は笑みを絶やすことなく返事をして私の言葉を待つ。
「さっきから気になってたんですけど」
気になっていたというか、気にならない方が土台無理な話だ。
幾つもの不躾な視線に晒され、囁く声が耳に届いてくる。そこには好奇の色がありありと浮かんでおり、言葉を選べぬほどに鬱陶しいことこの上ない。
新しい世界に何か期待のような気持ちがあったわけではなく、淡々とした気持ちで受け入れている自身を俯瞰しながら、未だ馴染めていない足元を見る。以前の学校の時のままの上履きには名前などなく、かといって新品というわけでもなく汚れが目に入った。
見上げると、前を行く担任となる人の背中があり、じっと背中を見つめる。逞しくもなく、華奢でもないその背中に、どこかで既視感を覚えたが恐らく気のせいであろうと思考の端へと追いやった。
空を見ようとして、今まで逸らしていた視線を窓へと向ける。
「割る生徒がいるんですよ」
こんな時代にも、と。
いつの間にか振り返っていた先生は、丁寧な口調とともに人の良さそうな笑みを浮かべて言った。
先生は若く、制服を着て混じってしまえばすぐにでも溶け込めそうだ。しかし、おっとりしているように見えて、どこか隙のないその雰囲気が違和感を覚えさせる。
不思議と興味を掻き立てられるその独特な空気に呑まれぬように、ほんの数分前に聞いた名前を思い出しつつ、それを舌に乗せて目を合わせる。
「深景先生」
一瞬だけ細められた瞳は測るようにして揺らいだ。しかし、彼は笑みを絶やすことなく返事をして私の言葉を待つ。
「さっきから気になってたんですけど」
気になっていたというか、気にならない方が土台無理な話だ。
幾つもの不躾な視線に晒され、囁く声が耳に届いてくる。そこには好奇の色がありありと浮かんでおり、言葉を選べぬほどに鬱陶しいことこの上ない。