鬼麟
 その耐えられなくなったという女の子の気持ちも、わからないわけでもない。
 この学校は特に汚れているわけではない。けれど、綺麗かと聞かれれば、頷くのには躊躇いが生じるだろう。
 割られ放題だったであろう窓は、もう窓枠のみ残されて吹き抜けがよろし過ぎる状態で、台風が来た際の対処法を是非とも教えて欲しいくらいだ。さらにそこに追い打ちをかけるのは、なんといっても男の数だろう。
 共学であるはずなのに、最早男子校と化した校内は、廊下を通るだけで様々な視線が突き刺さる。
 もし、もしもだ。私が普通の女の子だったならば、こんなところはご免こうむりたい。すぐにでも別の学校へと変える。そもそもこの学校を、選ぶことさえしなかっただろうに。

「篠原さんも、耐えられなくなったらいつでも相談に乗りますから。こちらもそれなりの対応を考えさせていただきますので」

 立ち止まる先生の視線の先には、クラスのプレートがある。

「さて着きましたね。つい話がしたくて遠回りをしましたが、ここが教室です」

 どうりで距離があると思ったが、この担任、わざと遠回りをしていたらしい。最短ルートを行けば恐らく、あのような視線に晒されることも、必要最低限に留められたであろう。
 要らない距離を歩いてしまったと同時に、私の姿が少なからず広まってしまったことに、多少なりとも不満がこみ上げる。
 プレートに書かれた文字は『2-S』。
 事前の説明によって聞かされた知識を掘り起こす。この学校は基本的にテストの点数によってクラスの振り分けを行うらしく、Sというクラスはその中で最上位のクラスに位置する。
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