鬼麟
 なんて浅はかな、と軽蔑さえも時には覚えた。
 だから、こんな風に否定と拒絶を持って僕らの手の中をすり抜けて行ってしまう子なんて、初めてだった。
 そこでふと動かした右手の先が、ピクリと僅かに動いた。そこからは思い出したかのように全身が極度の緊張状態から解放され、自由になっていく。レオも同じタイミングで動き始め、目が合い思わず呟く。

「……僕さ、こんなの初めて」

 レオもまた、それに強ばった表情で同意しつつも、そこにあるのは僕と同じ気持ちのようだ。
 なんとも言えない気持ちが広がる中、あの子の瞳を思い出せば、それが段々と形を成していく。

「なんていうか、すごい驚き」

 色々と。
 思ったままを吐露してしまうのも、それ以上に言う言葉が見つからないからだ。

「僕、あの子のこと放っておけない」

 身勝手な、余計なお世話とも言えるが、どうしても不安が拭えない。まだ会って間もない彼女に、僕らが果たしてどこまで踏み込んで行けるか、踏み込ませてくれるか。
 聞くまでもないそれは、離れろと言っているのに、僕は敢えてそれを壊してでも彼女をどうにかしたいと思う。
 曖昧な、具体案すらなく、彼女をよく知るわけでもないのに、よくそんなことを考えられるものだと、自分でさえも驚く。
 紛れもない本音と、どうしようもない衝動に駆られて、心の隅が焼き切れそうだ。欲を言えば彼女に面と向かって言いたいとすら思うのだから。

「そうだな」

 彼女の出て行った扉を見つめていたレオも、頷きながら肯定の意を示す。
< 46 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop