鬼麟
 やはりレオも感じたのだろうか、彼女の歪さを。
 決意にも似たその思いに、僅かに生まれた罪悪感で心の中でそっと呟く。ごめん、と。
 彼女は突き放すことを、関わらないことを望むのに、僕らは、少なくとも僕はどうしても彼女のその揺らぎをどうにかしたいと、思ってしまったのだ。





 ふわりと吹いた風が、パラパラと床に落ちた本のページを捲りあげる。
 彼女が退出し、人知れずほっと一息吐いて、悪いことをしてしまったと視線を落とす。
 自分よりも年下の、未だ庇護下に置かれるべき存在であるはずの彼女。強さを隠し偽り紛れようとする彼女に、俺の愚かな恐怖心は恐らく見破られていたのだろう。
 申し訳なさに歪んだ瞳が傷付き、今にも涙を浮かべそうになったことに、心が恥知らずにも痛んだ。
 ――“俺如きでは勝てない”。
 謙遜も、遠慮もない紛れもない事実。
 たとえ1パーセントでも彼女に勝てるという、希望的観測を持っていたとしても、彼女に対して喧嘩を売ることなんて有り得ない。俺が負けることは目に見えている上に、俺はある約束をしている。約束と言えば生易しいが、誓いにも等しいそれ。
 ここにいる間だけでも、守る。
 椅子から立ち上がり、本を拾うべくカウンターの反対へと回る。拾い上げると手の中にその質量感は増し、インクと紙の香りが鼻腔を擽る。
 あんな圧迫感は知らない。切羽詰まった瞳と、何かを伝えようと開かれた口。ついぞ漏れることのなかった音は、彼女の喉へと吸い込まれてしまった。
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