鬼麟
 色々なことを抱え込み、首を絞められている彼女にとって、“頼る”という選択肢はない。彼女にとってそれは恥ずべき行為の一つとして、“甘え”として捉えられている節がある。
 その証拠に、ちらりと見えた包帯の白。あれは潔白でも、純白でもない。戒めだ。戒めとして、自身の犯した罪を常に目に見えて置いておくことで、睨み続けているのだろう。

「とは言っても」

 結局のところ憶測にしか過ぎない。
 口から漏れ出た言葉の先は、思うだけに留めておくのが賢い。彼女の真意は幾重にも厳重に鍵をかけられ、奥底へと隠されてしまっている。
 頑なな方だと、思う。それと同時に、危うい方だとも思う。
 だからこそ、俺のように見守るべき人が必要なのだが。

「さて、吉と出るか邪と出るか」

 賭け事をしているような声だが、決して楽しんでいるわけではない。切実なのだ。こればかりは、これだけは。
 とはいえ、若があの子を放っておくとは思えないのが、今のところ悩みの種だ。あの調子でいるならば、既に顔合わせは済ませているはずだ。
 滲み出る苛立ちは、己の不可侵領域へと入り込もうとする、それこそ不定の輩へのものだろう。
 そして愚弟にも、その顔を合わせたことだろうことを思うと、頭痛がする。
 せめて、――せめて頼まれたことだけでも守らねば。
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