鬼麟
 だって可笑しいだろう。けらけら笑う暴走族幹部が、片手に女を担いでいたら、それはもう二度見してしまうだろう。

「棗ちゃんは変わり者だね」

 あなたに言われる筋合いはないと思う。
 口に出そうになったが、それを敢えて呑み込み毒を吐く。

「……さっきはあんなに怒ってたくせに」

「謝られたのにぐちぐち言うのは格好悪いでしょ」

 しれっとした口調で言うものだから、逆にこっちが呆気に取られる。どんな理屈なんだそれは。申し訳ないとか思って少しでも悩んだ私が馬鹿みたいじゃないか。
 実はあの時怒っていなかったのでは、とも思うけれどそれは流石にないだろう。

「それに俺、棗ちゃんのことが俄然気になっちゃったから」

 上機嫌な玲苑だが、こっちの気分はさながら葬式だ。だから気に入られたりとかされたくないんだってば、と聞こえるわけもない心の声。

「で、あの殺気は何だったのかな」

 急に真面目な口調になり、その雰囲気は返す言葉によっては逃さないと、言外に含まれていた。
 こっちとしては冷や汗が背中を伝い、バレることへの警戒が強まる。が、それも杞憂へと変わる。

「――とは聞かないでおくよ。今のところはね」

 肩透かしを喰らった気分に、黙り込んでしまえば彼は目的地に到着だと、昨日と同じ屋上に着いた。
 そこには蒼と倖、修人の姿があり、誰も怒っている様子はなかった。訝しく思いつつも、肩から降ろされ足をつけるが、扉は閉ざされ、さらには行く手を阻むように玲苑がその間に立つ。
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