鬼麟
 目に見えて怒っていないのが逆に怖く見え、蒼の笑みですら裏があるのではと変に勘繰ってしまう。
 修人の目が細められ、変わる空気。
 やめて、と何度も心が叫ぶ。
 純粋なその瞳が、私を見透かしているようで肌が粟立つ。そんな目で、私を捉えるなと喚き散らせば楽になれるだろうか。

「女が欲しいなら、他を当たって」

 何故か焦りから、とうに枯れてしまった涙が恋しくなる。可笑しな話だ。

「俺達は、お前のことは知らねぇ」

 なら放っておいてくれ。知らないままでいてくれ、それが最優の選択なんだ。
 それを言葉にする前に紡がれる。

「だがもう放っておくには惜しくなった」

 その瞳が物語るのは、拒否を認めない決定事項。子供じみたその我儘に、私には迷惑しかないというのに、呆れを通り越して尊敬の念を覚える。

「いくらお前が関わる気がないと言っても、俺達はお前に干渉し続ける」

 拒否権はない、その強引な一方的な押し付け。
 どうやったって離れる気はないと、口にする。
 そういえば、初めはあいつらともそんなふうにして打ち解け始めたんだった、と記憶の底から呼び起こされる。懐かしさが込み上げ、少しだけなら、と緩む私にそれは赦さなかった。
 灼ける屋敷の中、私を庇って流れた赤が目に映る。もう渡せなくなったプレゼントが、赤を吸って重くなる。

「やめてよ、それじゃあ……それじゃあ被るの」

 狼狽えて震える声は、あの頃と何も変わってない。何も出来やしないのだと、耳元で囁く幼い少女の声に視界が狭まる。
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