鬼麟
 幹部の彼等と縁があったとしても、彼等の下につく者達とは何もないのだから、護る義理もない。
 であればこそ、公にすることで護らざるを得ない状況にしてしまえばいいと言うのが彼の、いや、彼等の考えなのだろう。
 私は一度たりとも彼等と良好な関係を築いているとは思っていないのだけれど、と指先に力を込めて折り目をつけてから顔を上げる。
 説得する蒼の大きな瞳に映る、自身の顔にどうしようもない嫌悪感が生まれ、やっぱり視線を落とす私に彼はなおも説得を試みる。けれどどうしたって私の答えは変わらないし、変えるつもりも毛頭ない。
 彼等の干渉を多少なりとも受け入れているのだって、相当な譲歩から成る関係なのだ。暖簾に腕押し、とは良く言ったものだ。

「蒼、それは無理」

 手持ち無沙汰のついでに折っていた折り鶴を、彼の頭に乗せる。蒼は納得がいかないと、乗せられた鶴を片手に口を開きかけ、瞬きの一瞬に煌めいた瞳に映った赤い影。
 澄んだ、綺麗なそこに映る醜悪なそれに、抑え切れない衝動に駆られて握り締める拳。
 見ないでくれ、と喉の奥がひりひりと痛んだ。

「篠原さん」

 動き出そうとした右手を掴み、制止をかけるように紡がれたその声に後悔する。
 掴んでいた先生は、私が力を抜いた途端に合わせて手を離し、にこやかに微笑む。
 些細な変化に、蒼は気付いていないらしく、ほっと胸を撫で下ろしながらも後ろめたさが残る。
 何ですか、と何事も無かったかのように見上げると、先生は一言残して教室から出ることを促す。
< 66 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop