鬼麟



 苦しさに喉が詰まる感覚は、決して今に始まったことじゃなかった。いつだって息苦しさに喉を掻きむしりたい衝動に駆られているのに、今回ばかりは耐え切れずに表情を取り繕うことも出来なかった。
 軽蔑や嫌悪の眼差しが自身を貫く様を想像して、指先から力が抜けていく感覚さえ覚えてしまう。
 会って間もない、いつだってぞんざいに扱いながらも完全には切り捨てられない甘い彼女。痛みを内包する彼女は拒絶を示すが、それでも独りにはなりたくないと泣いているようにだって見えるのだ。
 同情と言われれば安っぽいそれだが、自身のしてきたことを顧みれば烏滸がましいほどだ。
 執着を嫌っているはずの自分も、徐々に彼女の内へと入りたいと思うようになっているのを自覚し、目の前が真っ暗になりそうになる。

「蒼?」

 いつの間にか目的地であったレオの元へと着いていたようで、彼は心配そうにこちらを見ていた。
 幼馴染であるからこそ些細な変化には気付かれるだろうが、今の自分は果たして大いにおかしくなっているだろうと予想できた。

「......玲苑、俺、今どんな顔してる」

 胸中を暴れ狂う不安が、溶け出してしまう前に消えて無くなればいい。

「笑えてないな」

 そう指摘するレオは開かれたノートPCへとまた向き直り、キーボードを叩き始めた。
 強ばっていた頬をむにむにと指先で戻しながら、その背中を見ていると彼は不意にこちらへと振り返った。

「取り繕っても見透かしてくんだろうな、あれは同族に敏感だろうから」
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