鬼麟
「今日は天気が良いからな」
撫でる手がさらりと髪を滑り、毛先を指先で持ち上げる瞳は優しく凪いでいる。
嫌かと短く聞かれれば私は首を振った。
バイクは嫌いではない。エンジン音を響かせて風を切るのは心地よく、なにもかもを置き去りにしていく中で背中を追う声を遠くで聞くのが好きだった。
嫌じゃないと小さく零す私に、彼は目を細めて弄ぶ毛先を離す。
しかし、バイクを許可したもののどうすると言うのだろうか。2台しかないからどちらかの後ろに乗せられることは明白で、とはいえ自らバイクに乗ることは出来ないのだ。一応“普通の”女子高生を名乗っている以上、手助けもなしに乗るのは普通を逸脱しているだろう。
乗れないと口にするのは屈辱だが、それでもこれ以上普通から遠ざかるわけには行かないのだから腹を括るしかないだろう。
そうようやく決心すれば、突如として浮き上がる感覚に口から出たのは情けない悲鳴であった。
「乗れないんだろう?」
修人によって降ろされたのはバイクのシートの上で、なんの身構えもしてなかったからか彼の腕をがっちりと掴んでいたことに恥ずかしさが込み上げる。
そうだけどと抗議の声を上げるより先に、頭にヘルメットを被せられて強制的に黙らせられてしまえば行き場を失う。
無言で手を自身の腰に回すように誘導させられ、吹かされたエンジンに掴まると動き出す。急に動き出したことに驚き、後ろに持って行かれそうになる上体をなんとか修人にしがみつくことで耐えるものの、胸中でこの野郎と悪態をつく。
撫でる手がさらりと髪を滑り、毛先を指先で持ち上げる瞳は優しく凪いでいる。
嫌かと短く聞かれれば私は首を振った。
バイクは嫌いではない。エンジン音を響かせて風を切るのは心地よく、なにもかもを置き去りにしていく中で背中を追う声を遠くで聞くのが好きだった。
嫌じゃないと小さく零す私に、彼は目を細めて弄ぶ毛先を離す。
しかし、バイクを許可したもののどうすると言うのだろうか。2台しかないからどちらかの後ろに乗せられることは明白で、とはいえ自らバイクに乗ることは出来ないのだ。一応“普通の”女子高生を名乗っている以上、手助けもなしに乗るのは普通を逸脱しているだろう。
乗れないと口にするのは屈辱だが、それでもこれ以上普通から遠ざかるわけには行かないのだから腹を括るしかないだろう。
そうようやく決心すれば、突如として浮き上がる感覚に口から出たのは情けない悲鳴であった。
「乗れないんだろう?」
修人によって降ろされたのはバイクのシートの上で、なんの身構えもしてなかったからか彼の腕をがっちりと掴んでいたことに恥ずかしさが込み上げる。
そうだけどと抗議の声を上げるより先に、頭にヘルメットを被せられて強制的に黙らせられてしまえば行き場を失う。
無言で手を自身の腰に回すように誘導させられ、吹かされたエンジンに掴まると動き出す。急に動き出したことに驚き、後ろに持って行かれそうになる上体をなんとか修人にしがみつくことで耐えるものの、胸中でこの野郎と悪態をつく。