猫耳少女は森でスローライフを送りたい
 再び場所は戻り、チセ達の住まう森の一軒家。

「さて、クマさんの治療は終了ね」
 まだ少し赤みが残るものの、ひどい腫れもひき、傷口も綺麗に消えていた。

「うん、ちょっとピリピリするけど……。ずいぶん楽になったよ、ありがとう」
 クマさんも嬉しそうだ。

 そして、あっ! と気が付いたように声をあげて、クマさんが何事かゴソゴソと動く。

 彼女は、ずいっと何かを私に差し出してきた。

 蜂蜜が入った壺だった。

「僕を追いかけてきた蜂さん……正確には、キラービーっていう魔物なんだけどね。彼らの蜜は特別に美味しいんだ。だから、食い気に走って、つい手を出しちゃって、追いかけられちゃったの」

 クマさんが差し出している壺の中を覗き込むと、確かに中には以前食べた蜂蜜よりも濃い色で、てりてりとした艶のある蜜が収められていた。

「治してくれたお礼に、これをチセに受け取って欲しいんだ」

 その言葉に、私は慌てて両手を横に振った。

「ダメよ。クマさんが命がけで採ってきた蜂蜜でしょう?」

 けれど、クマさんは、ぐいぐいと私に蜜壺を押し付けてくる。

「くまは! 受けた恩は返したい! そしてこれでも足りないと思ってる!」

 すると、頭の中でまた()()声がした。

『フォレストベアが、名前「くま」を受け入れました』

『「くま」は仲間になりたそうにこちらを見ています。どうしますか?』

 ……えーっと。いつからこれはゲームになったのかな?

 頭の中の声が、かつてやった仲間集めゲームを彷彿とさせるようなことを言うので、ため息が出てしまった。

 すると、私のその様子を見て、()()さんが、しゅんと下を向いてしまった。

「……やっぱり、フォレストベアと一緒なんて怖くてやだよね」

 そう言って、俯いたまま立ち上がって、くるりと出口の扉の方へ向きを変えた。

「ねえ、チセ。フォレストベアは、力持ちで攻撃力もある、立派な魔獣ぽよ。仲間になってくれて一緒に住んでくれるなら、とても安心ぽよ?」

 私の頭の上に乗るスラちゃんが、珍しく積極的に勧めてきた。

 そして、その言葉に期待を持ったのか、くまさんも、こちらに向き直る。

 つぶらなその瞳は、期待でキラキラしている。

 ……名前も付けちゃったみたいだしね。仲間決定よね。

「我が家へようこそ、くまさん」

 私は挨拶のために、片手を差し出した。

 その手は、くまさんの手にぎゅっと握りしめられた。

『おめでとう! テイムを使って仲間が五匹になりましたね! くまを眷属にしたことで、『鋭利な爪』を継承します』

 ……なんで急に、ゲームのアナウンスみたいになるの。

 思わず私は頭の中の声に突っ込んでしまう。

 確かに、小鳥さん三羽に、スラちゃんと、くまさん。五匹かぁ。

 精霊さんは、召喚だから、扱いが違うのかもね。

 ……それにしても、私は今、チュートリアルか何かの最中なのかなぁ。

 相変わらず、謎な頭の声に、ため息が溢れる。

「そういえば、くまさんってかなり大きいけれど、テイムしたと言っても、一緒に村に入れるのかしら?」

 使った分、もう少しポーションの数を増やしてから、村に売りにいく予定なのだと説明した。

「……僕は村人には怖がられるかも……」

 しゅんとなる、くまさん。

 そこに、頭の中の声の続きが響いた。

『お祝いに、一匹だけ獣人化出来ます! どの子にしますか?』
 →スラ
 ピー
 チュン
 ピッピ
 くま

 ……ゲームかっ!

 とうとう、選択カーソルまで出てきた。

「ねえ、くまさん。だったら、獣人化できるようにしてみる? 私の能力で、一人だけ変化可能みたいなの」

「獣人化……」

 くまさんが、私の言葉にキョトンとしていた。

「ああ、それいいね! 獣人化していれば、見た目は人に近いし、クマっぽさも薄れるんじゃない?……きっと怖がられることも減るはずだよ!」

 スラちゃんが私の頭の上で、賛成! とでもいうように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

「……怖がられない……。お友達も増えるかな」

 クマさんの顔は、友達が増えることの期待感でなのか、紅潮して嬉しそうだ。

「決まりだね」

『お祝いに、一匹だけ獣人化出来ます! どの子にしますか?』
 スラ
 ピー
 チュン
 ピッピ
 →くま

 くまさんを選択っと。

 すると、何やらくまさんが足元から順番に発光し出して、その光は最後に彼女の全身を覆った。

 そして、上から順に光が消えていくと、くまさんの新しい獣人としての姿が現れた。

 肩にかかる焦茶色の髪の毛に、愛らしいくりっとした黒目。

 そして頭の上には、まあるい二つのくま耳がついていた。
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