猫耳少女は森でスローライフを送りたい
 みんなで『いただきます』と、最後に『ごちそうさまでした』と言って、感謝を込めた食事を終えたあとは、誰から申し出るわけでもなく、後片付けに積極的だった。

 ただし、スラちゃんだけは丁重にお断りすることにした。

 だって、こんな申し出なのよ?

「僕がパクっとしてお皿を綺麗にするぽよ〜♪」

 こないだの木の器と同じく、スライム液でぬるぬるになっちゃうじゃない!

「なぜぽよ〜!?」

 と当人は憤慨していたけど、それはお断りである。

 くまさんとケットシーは、お皿を流し台に持って来てくれたり、テーブルを布巾で拭いてくれたりと、せっせとお手伝いをしてくれる。

 そして、片付けが終わったあと、小さな小皿を三枚用意して、その中に、今日くまさんに作ってもらったベリージャムを少しずつ取り分けた。

「サラちゃん、シラユキ、アクア〜!」

 いつもお手伝いをしてくれる三人を呼び出すと、サラちゃんとアクアがぽうっと宙に現れる。

 シラユキは冷蔵庫の中から、扉をすり抜けてやってきた。

「いつものお手伝いのお礼のジャムよ。ベリージャムがダメな子はいるかしら?」

 そう言って尋ねてはみたものの、皆の目はジャムに釘付けで、きっと大好きなのだろうと、見ているだけでわかってしまうくらいだった。

 一通り後片付けを終わらせて、精霊達はジャムを舐め、他のみんなは森で摘んできたカモミールのハーブティーをみんなで飲んでいると、ケットシーが部屋をキョロキョロし始めた。

 なんか、前に来た時にも、こんなことあったような……。

「ねえ、ケットシーさん。そんなにキョロキョロしているの?」

 すると、ケットシーがハッとした顔をして、モジモジし始めた。

「ボク、仲間から逸れちゃったんだにゃ」

 そして、しゅんと俯いた。

「あ、僕も仲間とはぐれて一人ぽっちだったんだよ!」

 そこに、くまさんが僕も! と言い出して、ケットシーがパッと顔を上げてくまさんを見つめた。

「一緒、一緒! 仲間だよ!」

 くまさんは陽気に、まるで、()()()()()をやるように、お互いの手のひらを重ね合わせて揺らす。

 仲が良いのはいいとしても……。

「そんなに、この森は一人ぽっちの子が多いの?」

 それはどう言うことだろう? と私は疑問に思って尋ねてみた。

「昔はね、この森はとても恵みに溢れた豊かな森だったんだけれどね、今は以前ほど花もあまり咲かないし、木の実も実らないんだ。少しづつなんだけど、減っていってる」

 くまさんの言葉に、ケットシーが同意するようにうんうんと頷く。

「以前ってことは、何かきっかけでもあるの?」

 私が尋ねると、二人は揃って頷いた。

「昔は、ずっと遠くにある竜王様のところに、聖女様がいたのにゃ」

「聖女様」

 まるで、まんまファンタジーな世界観のその言葉に、私は言葉を繰り返してしまう。

 でも、竜の聖女様? なんかすごく強そうな聖女様ね。

「そう。聖女様だよ! 聖女様がいた頃は、病気も夜に寝れば治っちゃったし、森に食べ物がいっぱいあったんだ!」

「うーん、()()()()ってことは、もういないってこと?」

 私が尋ねると、ケットシーが悲しそうに髭と尻尾を下げて、うん、と首を振った。

「聖女様は人間のお姫様だったらしいにゃ。だから、あっという間に死んじゃったのにゃ。それで、この森の実りはどんどん乏しくなりつつあるから、僕の仲間は今のうちにって言って、実りの豊かな地域を求めて移動しちゃったのにゃ」

「じゃあ、ケットシー、あなたも、その移動の群れからはぐれて、一人ぼっちなのね?」

 私は席を立って、ケットシーの元へ行って、彼を抱き上げてギュッとする。

「だったら、うちで一緒に暮らしましょう!」

「いいのかにゃ!」

 うるうるしたケットシーの緑の瞳が私を見上げてくる。

「ここのおうちは、お部屋もたくさんあるから大丈夫」

 すると、涙腺が緩んでしまったのか、ケットシーがうにゃああん! と泣き出してしまった。

「ひとりぼっちは寂しかったのにゃー! 嫌だったのにゃー! もうチセから離れないのにゃー!」

 私が抱き上げたその背中を、よしよしと撫でる。

「大丈夫、大丈夫。もううちの子に決定よ。名前をつけましょう」

「名前にゃ?」

 泣き止んだケットシーが、こてんと首を傾げた。

「だって、ケットシーは、種族としての名前でしょう?」

「そうにゃ」

「だったら、ちゃんとした自分だけの名前をつけてあげないとね……何がいいかなぁ」

 じっと抱き上げているケットシーを見る。

 すると、そのハチワレの額とソックス足にどうしても目が止まった。

「あ、ハッチ、ハチ、ソックス、くつした」

 ……あ、ネーミングセンスないかな?(汗)

「ソックスがいいにゃ! なんかカッコイイ響きだにゃ!」

 ケットシー改め、ソックスがそう言うと、彼の体がぴかっと光った。

 そして、お約束のように私の頭の中に声が響く。

『テイムしたことにより、スキル【舞踊】を取得しました』

 ……ちょっとなんの役にたつのかわからないけれど。
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