猫耳少女は森でスローライフを送りたい
第二章 猫耳少女と小さな村
 翌朝、私は自室でソックスと一緒にハート型の輪っかを描くようにして、一緒に眠った。

 勿論、私も猫の姿で。

 結局、昨夜は、ソックスが人(?)恋しがって、一緒に寝たいと甘えてきたので、彼の部屋はあてがったものの、私の部屋で一緒に眠ることになった。

 隣で他人(猫)と一緒に眠ると言うものは、温かいなぁ、なんて思っていたら私もすぐに睡魔に襲われた。

 気がついたら窓の外から朝日が差し込み、屋外の木々に集う小鳥達に朝だと告げられる。

「うにゃ、朝だにゃぁ」

 ソックスが、腕を伸ばして、うーんと伸びをする。

 私は猫の姿なので四つ足で起き上がって、前足をうーんと伸ばしながらお尻を突き出す。そして、顔をふるふるっとした。

「チセ、おはようにゃん」

「おはよう」

 お互いにそう言うと、お鼻でつん、とあいさつをする。

「今日は、村に行くんだにゃ?」

「うん。身支度をしたいから、部屋を出てもらっていいかしら?」

 わかった! と言って、ソックスが私の部屋の扉を開けて出ていった。

 それを見届けてから、ぽふん! と私は獣人の姿に戻る。

 姿見の前に立つと、着ている洋服も髪の毛もクシャクシャだった。

「わ、寝ぐせがすごい!」

 うーん、このワンピースは、しばらく吊るしておかないとシワは取れないかなぁ……。

 なんて、とほほ……、と思いながら、予備のワンピースに着替える。

 そして、鏡台の前に座って、結っている髪をほどき、ブラシを引き出しから取り出してから、綺麗に梳く。

 そうして、いつものツインテールに結い直した。

 アクアを呼んで、洗面器の中に水を満たしてもらい、顔と歯と口内を清める。

 水は窓の外から、ぽいっと捨てる。

「うん。これでよし!」

 自室から出ると、すでにみんなが思い思いにリビングで過ごしていた。

 私は、みんなが自由に過ごしている間に、昨晩のうちに用意していた、昨日いただいた鶏の骨で出汁を取った、野菜のスープを温め直す。

 朝食には、そのスープとスライスしたパンをみんなでいただいて、村へ向かうことにした。

「僕がその重い荷物を持つよ!」

 私が、うんしょ! と言って肩にかけようと、ふらふらしていたところを、くまさんが制止してくれた。

 ショルダーバックに、薬瓶が立つように、輪っかになるように縫いつけた布の区切りに、いっぱい薬瓶を差し込んだバッグはとても重くて、確かに私には安全に運べる自信はなかった。

「ありがとう、くまさん」

 私からショルダーバッグの肩紐を手渡されると、くまさんは、私より少し背丈の高い女の子(違いは耳と尻尾)って感じなのに、バッグを軽々と持ち上げて、肩から下げた。

「これからは、重いものは僕に頼んでね!」

 そう言って、私の頭をぽふぽふと撫でてくれた。

 それが終わると、撫でられ終わった私の頭の上に、スラちゃんがポヨンと飛び乗ってくる。

「さて、僕はここに乗っていくぽよ!」

「じゃあ、ボクが道案内にゃ!」

 ……スラちゃんだけが、お役に立っていない気がするけど。

 あ。そもそも、スラちゃんのスライム酸がないと、薬ができないんだった!

 そうして、みんなで仲良くおうちを出発して、村へと通じる森の小道を歩いていくのだった。



「そういえば、くまさん」

 ゆく道すがら、気になっていたことを尋ねようと、くまさんに声をかけた。

「ん? なあに?」

 道案内のケットシーを先頭にして、次に獣などの襲撃に備えて進むくまさんが、周りを見回しながら、返事をする。

「キラービー達とはどうなったの?」

 そう。仲直りできたのか、心配だったのだ。

「……うーん」

 くまさんは、困ったように首を捻った。

「そもそもね、僕達、友達だったんだよね。今までは、蜂蜜、分けてくれてたんだよ」

 あれ。それはちょっと意外ね。

「そうだったんだ」

「うん。今までは、集めすぎた分の蜂蜜を、僕らに分けてくれてたんだけどね……」

 なんでも、あの日は、「もう金輪際だめだ!」と兵隊役の蜂さんに突然拒否をされたのだという。

「いつもだとね、蜂蜜用の壺を持っていくと、余った分あげるよ〜! その代わり、いざって時は守ってね! って言われてたんだけど……」

 あれ? そうすると、くまさんと蜂さんは、もともとは持ちつ持たれつの間柄だったんじゃ、ないかしら?

「え? じゃあ、くまさんが、どうしても蜂蜜欲しくて、何かして怒られたとかじゃなかったの?」

 くまさんには悪いけれど、そう思い込んでいたから、ちょっと驚いて聞いてみた。

「僕はそんなことしないよ! まあ、お願い、って言うのがしつこかったかもしれないけど……」

 ぷう、と頬を膨らませるくまさん。

「花が足りなくて、蜂蜜足りないんじゃないかにゃ?」

 そこに、ケットシーが推論を述べてきた。

「そういえば、昨日言っていたわね。花も実も減りつつあるって」

「そうにゃ。だから、この森のみんなは、生きるのに必死なのにゃ」

 ソックスがぽつりと呟いた。
< 19 / 50 >

この作品をシェア

pagetop