猫耳少女は森でスローライフを送りたい
第三章 猫耳少女と竜の王子さま
話は、王城を去ったアルフリートに変わる。
彼は、人型で赤い翼をはためかせながら、王都から遠く、出来るだけ遠くを目指していた。
空は曇天。
雨が降る気配がないのは、濡れずに済んで助かるのだが……。
まるで、俺の気持ちを表しているようだ。
アルフリートは、どんよりとした空を眺めて、苦笑する。
俺の出自や事情を誰も知らない、そんな辺境で、しばらくただの竜族として過ごしたい。
そして、そこで自分を見つめ直したい。
アルフリートの出奔の理由は、それだ。
幾つもの領地を通り過ぎ、やがて、ひとつのそこそこの規模の村が、ポツンと存在していることに気がついた。
彼は、その村に辿り着くまでに、かなりの距離を飛んでいた。
そして、その村を上空から眺めて見ても、周囲には村や町らしきものは見当たらない。
ただ、広大な森がそばに広がる、牧歌的な村。
「この村を拠点にしようか……って、なんだ?」
滞在するには理想的な村だと思い、高度を下げようかと思ったその時だ。
ふと、森から出てきて、砂煙を上げながら村を目指す集団に気がついた。
それが何かを確かめようと、アルフリートはじっと目を凝らす。
よく見ると、一体ではそんなに大きくはない。
自分達竜族や人間と比較して、小さな体。
そして、一番特徴的なのは、体を覆う皮膚が緑色であることだった。
「……ゴブリンか?」
その状況から判断する感じでは、森に住んでいたゴブリンが村を襲おうとしているところ。
「手助けに行くか」
アルフリートが呟く。
こんな辺境の村だ。武力を備えているとも思えず、ゴブリンとはいえ、集団で襲われたら被害は免れないだろうと思ったからだ。
バサリ。
アルフリートの背に生えている翼が、大きくなり、彼の体が頭から赤竜のそれに変化していく。
まずは頬を中心とした顔を赤い鱗が覆いだし、体の形が変わり、全身を赤く美しく強靭な竜の鱗が飾る。
辺境の村には基本、現れることのない赤竜が、援護のために高度を下げて村に降り立とうとしていた。
◆
「ゴブリンが来たぞー! みんな、構えろ!」
病み上がりの村長の代理なのか、若手のリーダーらしい虎獣人が、門に集まった村人達に指示をする。
当然、協力しようと雑貨店から駆けつけた私達も、彼の指示に従って、集中する。
そして、とうとう先陣のゴブリン達が村の門のすぐそばにやってきた。
後方のまだ追い付いていないものを待っているようで、まだ村へは攻め込む気はないようだ。
「食糧をまず探すゴブ!」
「「「ゴブー!」」」
ゴブリンのリーダーと、従うもの達の言葉のやりとりが、はっきり聞こえる。
それを聞いて、虎獣人の若者が、後方にいたもの達に指示をする。
「相手の目的は食糧だ! 何人か食糧庫の守りに回れ!」
「「「わかりました!」」」
そんな時、私達がいる場所に影が落ちる。
なんだろうと思って、空を見上げる。
すると、私がこの世界にきて初めて見る赤竜が、私達のすぐ上で翼を羽ばたかせていた。
「……赤竜!」
流石の虎獣人達も、驚愕に目を見張る。
竜はこの国を建国した、王族や貴族に近しいものが多い、強大な力を持つ種属だ。それが、私達の上で翼を広げていたのだ。
驚きで、体が硬直しているらしいものもいる。
「くまちゃん、竜って本当にいるのね……」
立ち止まっている先陣のゴブリン達は、もうあと少しでこの村に押し寄せそうな距離だ。
それにも関わらず、私は、その偉大な姿に目を奪われる。
「ボクも初めて見たよ……!」
この地を奪いに、襲いに来たのだろうか?
もしそうだったとしたら、ゴブリン達以上の脅威なのは間違い無いだろう。
すると、上空から声をかけられた。
「俺が、ゴブリン達を威圧する。おそらく、硬直して動けなくなるだろうから、そこを攻めろ」
なんと、赤竜は私達の味方をするために来てくれたらしい。
そして、威圧でゴブリンを動けなくしてくれる……?
ということは、ひとまず縄か何かで捕縛して、事情を聞くなり、説教をしたほうがいいんじゃ無いかしら?
何も、問答無用で攻撃しなくてもいいわよね?
私は、そう思った。
「だったら、動けなくなったところを捕まえて、こんなことしちゃダメって、お説教してみましょうよ! それでダメだったら、……やっつければいいわけで……」
私は、最後の一言を口にするのに一瞬ためらった。
『やっつける』。
それはすなわち、傷つけ、殺すことだからだ。
「食べ物に困ったら、奪えばいい、それじゃあダメだって知らないのかもしれない。チセの言うとおり、教えてみてからでいいんじゃないかな?」
私の意見に、くまさんが加勢してくれた。
「襲撃しに来たゴブリンを倒さない?」
「驚いた。なんとお優しい」
「……さすがは、薬師様、神の遣わした癒し手ということなのか?」
虎獣人さんを中心とした村人達が、ざわざわとしだし、対応を検討している。
そして、突然現れた赤竜は、それを上空から見守っていた。
彼は、人型で赤い翼をはためかせながら、王都から遠く、出来るだけ遠くを目指していた。
空は曇天。
雨が降る気配がないのは、濡れずに済んで助かるのだが……。
まるで、俺の気持ちを表しているようだ。
アルフリートは、どんよりとした空を眺めて、苦笑する。
俺の出自や事情を誰も知らない、そんな辺境で、しばらくただの竜族として過ごしたい。
そして、そこで自分を見つめ直したい。
アルフリートの出奔の理由は、それだ。
幾つもの領地を通り過ぎ、やがて、ひとつのそこそこの規模の村が、ポツンと存在していることに気がついた。
彼は、その村に辿り着くまでに、かなりの距離を飛んでいた。
そして、その村を上空から眺めて見ても、周囲には村や町らしきものは見当たらない。
ただ、広大な森がそばに広がる、牧歌的な村。
「この村を拠点にしようか……って、なんだ?」
滞在するには理想的な村だと思い、高度を下げようかと思ったその時だ。
ふと、森から出てきて、砂煙を上げながら村を目指す集団に気がついた。
それが何かを確かめようと、アルフリートはじっと目を凝らす。
よく見ると、一体ではそんなに大きくはない。
自分達竜族や人間と比較して、小さな体。
そして、一番特徴的なのは、体を覆う皮膚が緑色であることだった。
「……ゴブリンか?」
その状況から判断する感じでは、森に住んでいたゴブリンが村を襲おうとしているところ。
「手助けに行くか」
アルフリートが呟く。
こんな辺境の村だ。武力を備えているとも思えず、ゴブリンとはいえ、集団で襲われたら被害は免れないだろうと思ったからだ。
バサリ。
アルフリートの背に生えている翼が、大きくなり、彼の体が頭から赤竜のそれに変化していく。
まずは頬を中心とした顔を赤い鱗が覆いだし、体の形が変わり、全身を赤く美しく強靭な竜の鱗が飾る。
辺境の村には基本、現れることのない赤竜が、援護のために高度を下げて村に降り立とうとしていた。
◆
「ゴブリンが来たぞー! みんな、構えろ!」
病み上がりの村長の代理なのか、若手のリーダーらしい虎獣人が、門に集まった村人達に指示をする。
当然、協力しようと雑貨店から駆けつけた私達も、彼の指示に従って、集中する。
そして、とうとう先陣のゴブリン達が村の門のすぐそばにやってきた。
後方のまだ追い付いていないものを待っているようで、まだ村へは攻め込む気はないようだ。
「食糧をまず探すゴブ!」
「「「ゴブー!」」」
ゴブリンのリーダーと、従うもの達の言葉のやりとりが、はっきり聞こえる。
それを聞いて、虎獣人の若者が、後方にいたもの達に指示をする。
「相手の目的は食糧だ! 何人か食糧庫の守りに回れ!」
「「「わかりました!」」」
そんな時、私達がいる場所に影が落ちる。
なんだろうと思って、空を見上げる。
すると、私がこの世界にきて初めて見る赤竜が、私達のすぐ上で翼を羽ばたかせていた。
「……赤竜!」
流石の虎獣人達も、驚愕に目を見張る。
竜はこの国を建国した、王族や貴族に近しいものが多い、強大な力を持つ種属だ。それが、私達の上で翼を広げていたのだ。
驚きで、体が硬直しているらしいものもいる。
「くまちゃん、竜って本当にいるのね……」
立ち止まっている先陣のゴブリン達は、もうあと少しでこの村に押し寄せそうな距離だ。
それにも関わらず、私は、その偉大な姿に目を奪われる。
「ボクも初めて見たよ……!」
この地を奪いに、襲いに来たのだろうか?
もしそうだったとしたら、ゴブリン達以上の脅威なのは間違い無いだろう。
すると、上空から声をかけられた。
「俺が、ゴブリン達を威圧する。おそらく、硬直して動けなくなるだろうから、そこを攻めろ」
なんと、赤竜は私達の味方をするために来てくれたらしい。
そして、威圧でゴブリンを動けなくしてくれる……?
ということは、ひとまず縄か何かで捕縛して、事情を聞くなり、説教をしたほうがいいんじゃ無いかしら?
何も、問答無用で攻撃しなくてもいいわよね?
私は、そう思った。
「だったら、動けなくなったところを捕まえて、こんなことしちゃダメって、お説教してみましょうよ! それでダメだったら、……やっつければいいわけで……」
私は、最後の一言を口にするのに一瞬ためらった。
『やっつける』。
それはすなわち、傷つけ、殺すことだからだ。
「食べ物に困ったら、奪えばいい、それじゃあダメだって知らないのかもしれない。チセの言うとおり、教えてみてからでいいんじゃないかな?」
私の意見に、くまさんが加勢してくれた。
「襲撃しに来たゴブリンを倒さない?」
「驚いた。なんとお優しい」
「……さすがは、薬師様、神の遣わした癒し手ということなのか?」
虎獣人さんを中心とした村人達が、ざわざわとしだし、対応を検討している。
そして、突然現れた赤竜は、それを上空から見守っていた。