猫耳少女は森でスローライフを送りたい
私を乗せたアルが空を飛ぶ。
どこまでも澄んだ青い空、ときどき浮かんでいる白い雲。
来た道を振り返って見てみたら、広大な森が広がるそばに、ぽつんとルルド村があった。
「あんなに小さい!」
私は思わず声に出した。
ルルド村が、前世生きていた街とは、比べ物にならないくらいに小規模なのはわかっていた。
けれど、理屈ではそうであっても、今の私にとってはあの村とアトリエを往復することが世界の全て。
だから、牧歌的なあの村がおもちゃの模型のように見えることに、驚いたのだ。
「まあ、ルルド村はこの国でも小さな村だな」
アルが教えてくれた。
「あの村は、この国の一番外れにあるんだ。あまりに他の村や町とも遠すぎて、領地にしようとする貴族もいなくてな。だから、国王の直轄地扱いになってる」
アルの説明に、「ふうん」と納得してもう一度下を見下ろすと、村が遠のいたというのに、いつまで経っても次の村も町も現れなかった。
「本当に、周りには全く集落がないのね」私は納得して頷いた。
しばらく進むと、ポツポツと村や町が散見されるようになり、その密度が濃くなってくると、大きな街と見られる都市らしきものも見つかるようになった。
一本しかなかった細い道はやがて集まって街道になる。
村落や都市では家畜も飼われているようで、牛や馬、山羊のような生き物も遠目で確認できた。
人種は、獣人、ドワーフかハーフリングかと思われる小さな人、頭部が竜のものもいた。
「ねえ、アル」
「どうした?」
「あそこにいる、頭や尻尾が竜で体は人間の人と、アル達は違うの?」
「ああ」と気が付いたようにアルが答える。
「ルルド村には、ドラゴニュートはいなかったから、チセが知らなくても当然か」
「ドラゴニュート」
「そう。彼らは、遠い祖先が竜と交わったと言われている、亜人だな。血の濃い竜族と、彼らは違う。俺たちは、竜形、人形、人形に翼を生やした形に変化できるんだが、彼らはあの容姿で固定されている」
なるほど。
竜に似ているといっても、色々種類があるらしい。
再び視線を眼下に展開される光景に戻す。
都市から離れるとまた集落の規模が小さくなっていき、再び集落の所在地も近くなっていく。それを繰り返すのだ。
そこは、昔いた世界とあまり変わらないのかもしれない。
私たちは空の旅を続けた。
やがて、一際高い山々が聳え立つ真ん中に、お城が現れた。
それは、立地自体も天然の要塞として利用している。城を囲うのはゴツゴツとした高い岩壁と、それを補うように作ったと思われる切り立った城壁だ。
館は広く、仕えるものたちも、たくさん控えることができそうな大きさ。
左右に高い塔が聳え、その円柱の形から、螺旋で続く階段がありそうだなどと想起する。
「お城だわ!」
その荘厳な光景に、思わず私は、それを指差して歓声をあげる。
前世の私は、ヨーロッパ旅行になどいったことはなかった。だから、こんな光景を生で目にしたことがなかったのだ。
「あれが、赤竜城。この国の王城だ」アルが説明した。
「……王城」
ならば、アルはあんなに大きなところを住まいにしていたのだろうか。
うーん。育ちの違いを感じる。
「私なんかが行くのは、場違いじゃないかしら?」
城が近づくにつれて、私はだんだん気後れしてきた。
「気にするな。……そもそも、俺がお前を紹介したくて連れてきたんだから」
アルの返答に、私はさらに疑問が深まってしまう。
ーーん? 紹介? 誰に?
そんな私を他所に、彼は城へと向かうのだった。
やがて、私たちは王城のごく近くというところまで近づいた。
「見たことのない竜が!」
「金色の竜なんて、いたか⁉︎」
発着場になっているという、館の上で空からの襲撃を警戒する兵士が、私たちを指差して口々に叫んだ。
「俺はアルフリート。赤竜王の末子、アルフリートだ!」
竜の姿でアルが口が開き、そう名乗る。
「アルフリート様⁉︎」
「おい、陛下に報告しろ!」
「確認が済むまで、しばしお待ち願いたい!」
与えられた仕事に忠実な兵士たちが、アルに待ってくれるように依頼する。
「ああ。父上にはこう伝えてくれ。『あなたと聖女エリシアの息子が、やっと目覚めました』と」
「承知しました!」
兵士たちは、引き続き警戒を続けるもの、報告に走るものと、二手に分かれて慌ただしくなるのだった。
◆
許可が降りたということで、私たちは城内に案内された。
明らかに容姿が変わったアルを、あの伝言だけでアルと認めるというのも不思議な話だったのだけれど、その後はスムーズにことが運んだ。
やがて一つの豪奢な扉の前で兵士が立ち止まる。彼は一礼してその扉を開けた。
それは謁見の間とでもいうものだろうか?
そこまで広いわけではない。けれど、天井や壁を飾る壁画、置かれる調度品は華美すぎないものの豪奢だった。建国時代のことをモチーフにしているのだろうか。壁画には、竜や亜人、神と思しき人が描かれていた。
部屋の一方に並ぶ窓ガラスは天井ギリギリまで高く作られていて、差し込む日差しが部屋の中を明るく照らす。
そうして、部屋の奥には上段があり、その中央に二つの椅子があった。
片方には壮年の男性が、もう片方には同じ年頃の女性が腰を下ろしている。そして男性の隣には、アルと同じ年頃の男性が立っていた。
「アル、よく帰ってきた!」
壮年の男性が椅子から立ち上がり、大きく両手を広げていた。
どこまでも澄んだ青い空、ときどき浮かんでいる白い雲。
来た道を振り返って見てみたら、広大な森が広がるそばに、ぽつんとルルド村があった。
「あんなに小さい!」
私は思わず声に出した。
ルルド村が、前世生きていた街とは、比べ物にならないくらいに小規模なのはわかっていた。
けれど、理屈ではそうであっても、今の私にとってはあの村とアトリエを往復することが世界の全て。
だから、牧歌的なあの村がおもちゃの模型のように見えることに、驚いたのだ。
「まあ、ルルド村はこの国でも小さな村だな」
アルが教えてくれた。
「あの村は、この国の一番外れにあるんだ。あまりに他の村や町とも遠すぎて、領地にしようとする貴族もいなくてな。だから、国王の直轄地扱いになってる」
アルの説明に、「ふうん」と納得してもう一度下を見下ろすと、村が遠のいたというのに、いつまで経っても次の村も町も現れなかった。
「本当に、周りには全く集落がないのね」私は納得して頷いた。
しばらく進むと、ポツポツと村や町が散見されるようになり、その密度が濃くなってくると、大きな街と見られる都市らしきものも見つかるようになった。
一本しかなかった細い道はやがて集まって街道になる。
村落や都市では家畜も飼われているようで、牛や馬、山羊のような生き物も遠目で確認できた。
人種は、獣人、ドワーフかハーフリングかと思われる小さな人、頭部が竜のものもいた。
「ねえ、アル」
「どうした?」
「あそこにいる、頭や尻尾が竜で体は人間の人と、アル達は違うの?」
「ああ」と気が付いたようにアルが答える。
「ルルド村には、ドラゴニュートはいなかったから、チセが知らなくても当然か」
「ドラゴニュート」
「そう。彼らは、遠い祖先が竜と交わったと言われている、亜人だな。血の濃い竜族と、彼らは違う。俺たちは、竜形、人形、人形に翼を生やした形に変化できるんだが、彼らはあの容姿で固定されている」
なるほど。
竜に似ているといっても、色々種類があるらしい。
再び視線を眼下に展開される光景に戻す。
都市から離れるとまた集落の規模が小さくなっていき、再び集落の所在地も近くなっていく。それを繰り返すのだ。
そこは、昔いた世界とあまり変わらないのかもしれない。
私たちは空の旅を続けた。
やがて、一際高い山々が聳え立つ真ん中に、お城が現れた。
それは、立地自体も天然の要塞として利用している。城を囲うのはゴツゴツとした高い岩壁と、それを補うように作ったと思われる切り立った城壁だ。
館は広く、仕えるものたちも、たくさん控えることができそうな大きさ。
左右に高い塔が聳え、その円柱の形から、螺旋で続く階段がありそうだなどと想起する。
「お城だわ!」
その荘厳な光景に、思わず私は、それを指差して歓声をあげる。
前世の私は、ヨーロッパ旅行になどいったことはなかった。だから、こんな光景を生で目にしたことがなかったのだ。
「あれが、赤竜城。この国の王城だ」アルが説明した。
「……王城」
ならば、アルはあんなに大きなところを住まいにしていたのだろうか。
うーん。育ちの違いを感じる。
「私なんかが行くのは、場違いじゃないかしら?」
城が近づくにつれて、私はだんだん気後れしてきた。
「気にするな。……そもそも、俺がお前を紹介したくて連れてきたんだから」
アルの返答に、私はさらに疑問が深まってしまう。
ーーん? 紹介? 誰に?
そんな私を他所に、彼は城へと向かうのだった。
やがて、私たちは王城のごく近くというところまで近づいた。
「見たことのない竜が!」
「金色の竜なんて、いたか⁉︎」
発着場になっているという、館の上で空からの襲撃を警戒する兵士が、私たちを指差して口々に叫んだ。
「俺はアルフリート。赤竜王の末子、アルフリートだ!」
竜の姿でアルが口が開き、そう名乗る。
「アルフリート様⁉︎」
「おい、陛下に報告しろ!」
「確認が済むまで、しばしお待ち願いたい!」
与えられた仕事に忠実な兵士たちが、アルに待ってくれるように依頼する。
「ああ。父上にはこう伝えてくれ。『あなたと聖女エリシアの息子が、やっと目覚めました』と」
「承知しました!」
兵士たちは、引き続き警戒を続けるもの、報告に走るものと、二手に分かれて慌ただしくなるのだった。
◆
許可が降りたということで、私たちは城内に案内された。
明らかに容姿が変わったアルを、あの伝言だけでアルと認めるというのも不思議な話だったのだけれど、その後はスムーズにことが運んだ。
やがて一つの豪奢な扉の前で兵士が立ち止まる。彼は一礼してその扉を開けた。
それは謁見の間とでもいうものだろうか?
そこまで広いわけではない。けれど、天井や壁を飾る壁画、置かれる調度品は華美すぎないものの豪奢だった。建国時代のことをモチーフにしているのだろうか。壁画には、竜や亜人、神と思しき人が描かれていた。
部屋の一方に並ぶ窓ガラスは天井ギリギリまで高く作られていて、差し込む日差しが部屋の中を明るく照らす。
そうして、部屋の奥には上段があり、その中央に二つの椅子があった。
片方には壮年の男性が、もう片方には同じ年頃の女性が腰を下ろしている。そして男性の隣には、アルと同じ年頃の男性が立っていた。
「アル、よく帰ってきた!」
壮年の男性が椅子から立ち上がり、大きく両手を広げていた。