迷いの森の仮面夫婦

聞きたいような聞きたくないような…。 本当は海鳳の口から桜子さんの事は聞きたくなかった。

「ずっと身近にいてくれて、誕生日おめでとうって言ってくれてたのも桜子だった。
いつも明るくって、俺本当は医者になるつもりもなかったけど、海鳳は絶対にお医者さんに向いてるから勉強はしておいた方がいいよって言ってくれたのも桜子だったんだ。
だから今の俺があるのもずっと桜子のお陰だと思ってる。言葉じゃどうやっていいか表せれはないけれど、すごく大切だったんだ。」

「そうだったんだぁ…」

海鳳にとって桜子さんがどれ程大切で大好きな存在かは分かってるのに、くよくよした気持ちになってしまう。

それでも笑っていなくっちゃ。 そういうの全部ひっくるめて、海鳳の側にいたのだから。

「けれど、こんなに幸せな気持ちになった誕生日は初めてだ」

顔を上げて照れくさそうに微笑む海鳳を見て、嬉しい気持ちと悲しい気持ち半分。
もしかして海鳳は私に気を遣ってそう言ってくれているのかもしれない。
それでもたとえその言葉が嘘だったとしても、そんな海鳳の優しい嘘を信じたいとも思う。
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