迷いの森の仮面夫婦
学生時代も何となく医学部へ進んだものの、自分の将来が全然見えなかった。
そんな時幼馴染で二個上の桜子が、「海鳳はお医者さんに向いていると思うな」と言ってくれた。
小さな頃から何かと世話を焼いてくれて、ずっと一緒に居てくれた幼馴染。 俺は、桜子の事がずっと好きだった。
幼い頃両親同士の会社の繋がりで出会ったのもあって、あれが紛れもなく俺の初恋だ。 けれど桜子はいつまで経っても俺を弟扱いして、異性として意識をしてくれる事はなかった。
こじらせすぎた初恋は実ることなく、数年前桜子は別の男性と結婚してしまった。
彼女を忘れる為に色々な女性と付き合い、一夜を共にしてきた。 だけどちっとも好きになれなくって、相手が自分を好きになってしまうと重荷に感じるようになった。
酷い事を沢山してきたと思う。 けれど桜子を想い一人で抱える夜は辛すぎてどこにも行き場のない気持ちをいつも持て余していた。
「早乙女先生、ちょっといいかい?」
朝、入院患者のカルテをチェックしながら朝のカンファの準備をする。
内科全体のカンファが終わり、病院回診をして外来が始まる少し前に高塚先生から呼び出された。