迷いの森の仮面夫婦

どんな事があっても、海鳳の前では明るく振舞おう。
トイレで顔を洗い流して、目の腫れを落ち着かせた後部屋の扉を開けた。

「ごめーん!遅くなって! お土産選ぶのに迷っちゃってさ~。
ねぇ見て見ていっぱい買ってきた。
かいほ…」

部屋に戻ると、綺麗に装飾されており
ベッドの上には、沢山のプレゼントの箱と袋が並んでいた。

海鳳が私の方へ駆け寄ってきて、淡いピンクのコスモスの花束を持って「おめでとう、雪穂」とふんわりと笑う。

思わず花束を受け取るのも忘れ、茫然とその場に立ち尽くす。

「何、これ……」

「俺から雪穂へ、誕生日プレゼント。 部屋の飾りつけはさすがに時間がなかったから、スタッフさんに話してしてもらったんだけどさ。
それより花束受け取ってよ。 雪穂の一番好きな花、コスモス」

彼の手から渡された淡いピンク色のコスモスの花束。 それはあなたが初めてくれた花だから、いつしか私の一番好きな花になった。

コスモスの独特の香りが、花を掠める。 それだけで胸がいっぱいになって、ぶわっと涙が溢れ出した。
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