迷いの森の仮面夫婦
「桜子、どうしたんだよ。 ずっと待っていたのか?」
傘を持つ手は、赤く染まっていた。
桜子が何かあれば俺を頼ってくるのは、どんな状況でも俺が彼女を受け入れると知っているからだ。
結局はいつだって陸人さんの元へ帰ってしまう彼女なのに、今までどうしてもその存在を拒む事は出来なかった。
ふわりと赤い傘が桜子の手から離れ、空中に浮かぶ。
水溜まりの上に傘が転がって行くのを確認した時は、もう桜子は俺の胸の中にいた。
「海鳳……」
何かあればいつも抱きとめて、大好きだった長い髪に指を通す。
彼女の匂いがふわりと香って、どうしても抱きしめられずにはいられなかった。
そう、今まではずっと。
「どうした?何かあったのか?」
「私本当に陸人さんとはもう駄目かもしれない…。
今日もクリスマスだって約束してたのに、結局帰ってこれないかもしれないって…
私、どうしたらいいか分からないよ」