迷いの森の仮面夫婦
その瞬間、繋がったかと思われた電話は切れた。 それから電話が通じなかったので、雪穂にはメッセージで少し遅れる事を伝え、駅のホームで桜子を宥めた。
少し宥めれば落ち着くのはいつもの事。 けれどもう、俺は彼女が困っていても助ける事は出来ない。 涙を拭ってあげる事が出来ない。 はっきりとそう告げると、まだ桜子は寂し気な顔をしていたが「うん」と頷いた。
タクシーを拾い、家路まで急ぐ。
車内の窓から、ゆっくりと粉雪が舞い落ちていた。
’ホワイトクリスマスなんてロマンチックで雪穂が喜びそうだ。’そんな事を考えながら、車の中雪を見上げていた。
早く会いたい。気持ちばかり先走る。 愛していると、伝えよう。君が誰を想っていても、俺はやっぱり君を愛しているから本物の夫婦になりたい。
何度だってその想いを伝えよう、そう決心した矢先だった。
「ただいま、雪穂?」
マンションに着き、インターホンを鳴らしてもいつものように彼女は出迎えには来なかった。
サプライズ好きの彼女の事だ、俺を驚かせるために隠れているに違いない。 今日のクリスマスをとても楽しみにしていた。