迷いの森の仮面夫婦

「雪穂?」

しかしもう一度名前を呼んでも、室内はシンと静まり返っている。
室外機の音だけが静かに響き、部屋を温めてくれている。

リビングの灯りをつけると、そこにはラップにかかったチキンとオードブルが用意されていた。
そしてテーブルの上には俺への物であろうクリスマスプレゼントの箱もちゃんと置かれている。

しかし目を疑ったのは、その箱に横にあった物だ。

「雪穂……」

うわ言のように名前を呼び、辺りを見回す。 しかしいつものように明るい声で「海鳳!」と俺を名前を呼ぶ返事はない。

テーブルの近くにいって、クリスマスプレゼントを持ち上げる。

そこには雪穂が片時も手放す事のなかった結婚指輪と、離婚届が置いてあった。 離婚届を持つ手が震える。

妻の欄は全て既に埋まっている。

「ゆき、ほ?」

願うようにもう一度だけ名前を呼んでも、当たり前だが静まり返った部屋から返事はない。
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