迷いの森の仮面夫婦
「ウーン…とは言ってももう数ヵ月も前の話よぉ?
雪穂ちゃんとランチに行った時に、桜子ちゃんの話したなーって思ってさ。
それで雪穂ちゃんが思い悩んだ感じで、海鳳は自分の事好きじゃないって話をしてて…」
「なっ!」
思わずテーブルに手を置くと、その弾みでジョッキグラスが揺れた。
いつの間に凪咲とそんな話を。
ハッと口をつぐむと、凪咲は気まずそうな表情をして、俺の顔を覗き込む仕草をする。
「いや…誤解とかそんなんじゃないけれど…」
まるでその言葉は自分に言い聞かすようだった。 桜子を愛していたのは誤解でも何でもない。
雪穂と結婚したのも自分が楽になれるからで、彼女を最初から愛していたわけではない。
だからこんな関係などいつ破綻してもおかしくないのは分かっていた。 けれど…前触れなんてものがなかったから…。
「海鳳…」