迷いの森の仮面夫婦
「確かに俺は…ずっと桜子を好きだったから。
雪穂と結婚したのだって互いに好きだったからじゃなかった。
だからこうなってしまったのは仕方がない事なのかな……」
まるで独り言みたいに言っていた。 なんて情けない男だろうと思う。
彼女を愛しいと愛していると自覚をしたのは随分前だった。 高を括っていたのだろう。いつだって澱みのない笑顔を見せる彼女に対して、自分からは絶対離れて行かない。何の根拠があってそう思えたのだろう。
「海鳳!海鳳ってば!」
「あ、ごめん」
一人で納得をして答えを出そうとしていた俺を、凪咲は心配そうな表情で見つめる。
こういう時は双子であれど、お姉ちゃんだなぁと思う瞬間だ。
「何を一人で答え出して納得しちゃってんのよ。好きなんでしょう?雪穂ちゃんの事…」
「そりゃあ、そうだろう…。 でもこうなったのも仕方がないんだ。俺達は互いに好きじゃなくって結婚したんだから…」
「大切なのは、始まりなんかじゃないでしょう?」