迷いの森の仮面夫婦

そこで出会ったのは、アイリーン先生だった。
今日は金曜日…先生はいるだろうか。
占いに縋りつくなど非科学的だとは知りながらも、足は雑居ビルの中へと入って行った。

「すいません、予約はしていないんですが」

扉を開けると、そこにはスマートホンで動画を見ている一人の女性の姿があった。
どうやらよっぽど気が抜けていたらしい。

テーブルの上にはタロットカードと金髪のかつらが投げ捨てられるように置いてある。
俺の顔を見て「ひっ」と小さく声を上げた。

アイリーン先生ではなかった。
彼女はいつも顔を半分隠しているとはいえ、直ぐに違う先生である事に気が付いた。

しかし目の前の女性が口をぱくぱくとさせ「さお、早乙女せんせ…」と俺の名を口にした。言った後にハッとして両手で口元を押さえる。
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