迷いの森の仮面夫婦
「ごめっ…ごめんなさいっ…」
椅子から立ち上がった海鳳は、私の背中に両腕を回したかと思えばそのまま持ち上げた。
そして、目を細めて安心したように安らかな微笑みを見せるんだ。
「すっごくびっくりしたけど…。 つーか、アイリーン先生が雪穂だって気が付かなかった自分の間抜けさにあきれるばかりだけど…
始めは本当にびっくりしてたんだ。
俺達は確かに愛し合って結婚したわけじゃないけれど…毎日がすごく楽しくて雪穂と一緒に居ると癒される自分がいて
雪穂ももしかして同じ気持ちでいてくれてるのかと思い始めたら、突然家を出て行ってしまうから。
しかも離婚届までおいてさ… 俺本当にショックだったんだからね。 音信不通になっちゃうし」
抱き上げられた肩にぎゅっと顔を埋めると、海鳳の匂いがする。
懐かしくて愛しくて、より一層涙が溢れ出す。
「ごめんねっ…海鳳の顔を見て直接お別れをいう勇気がどうしても出なかった…。 だからああやって逃げる事しか…」
「もうっ…逃げないでよ」
「海…鳳…?」