迷いの森の仮面夫婦

雪穂を愛している――それはずっと欲しかった物。
欲しがる前から、ずっと諦め続けた物だった。

一緒に居るだけで充分すぎる程欲張っているのだから、愛される事なんて望まない。
そんなの全部嘘だ。  あなたの愛だけ、たった一つ欲しかった。

「私も海鳳の事を愛しているの…本当は、ずっと…。
でも好きになればなる程苦しかった…」

「もう一度、始めからやり直そう。
今度はもう二度と君を離さない」

海鳳の胸の中、こくりと頷く。 もう涙で言葉になんかならなかった。

もう一度私の体を強く抱きしめた海鳳は、ゆっくりと髪に手を触れて、頬を流れる涙を拭いながらキスをした。

海鳳の茶色の瞳に僅かに涙の痕が浮かんで、ライトできらきらと反射している。
唇を離したら、互いに顔を見合わせて微笑み合う。

まるで自分から迷いの森に迷い込んだこの結婚の、出口にはいつだってあなたがいてくれたんだ。
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