迷いの森の仮面夫婦
「うー、ごほんっ……
二人の世界に浸っている時に申し訳ないんだけど、そういうのは帰ってからやってくれるかしら?」
バックルームに居た筈の愛莉が一つ咳ばらいをして、気まずそうに姿を現した。
すっかり忘れていた!
慌てて海鳳から離れて、背中を向ける。
恥ずかしい…。何を二人の世界に入り切ってしまっていたんだろう。
しかし直ぐに海鳳は私の片方の手を強く握りしめ、にこりと微笑みかけた。
「ごめんなさい、西松さん。 それにありがとうございました。」
「別にいいって事。互いに思いやってんのにすれ違ってるのも馬鹿らしいものじゃん。」
「実は西松さんにこの機会を与えて貰ったんだ。
だからアイリーン先生が、雪穂だってのも聞いてたんだよ。」
「そうなの?!」
こっそりと海鳳が耳打ちをする。
呆れ返ったようにウィッグやタロットを片付ける愛莉は、わざとらしく大きなため息を吐いていたけれど
その横顔は心なしか嬉しそうだった。