迷いの森の仮面夫婦
当たり前だけど、海鳳が私の事を覚えているわけはない。 出会った時から目が離せなくって、いつも心の片隅に彼の存在があった。 愛莉いわく私の方がよっぽど異常なのだ。
しかし二十年後に出会ってもまた、私は海鳳に二度目の一目惚れをしてしまうのであった。
それから五年の月日が流れた。
海鳳とはたまに院内で会ったり、仕事を数回一緒にしたけれど、一向に私の名前を覚えてくれる気配はなかった。
誰にでも優しくって、親切。愛想も良くて、紳士的。 でもそれは裏を返せば誰の事もどうでも良くて、興味がない。
切れるカードを直ぐに切りたくはなかった。 この五年間の間、彼の間を通りすぎていった女性は多々いた。 来るもの拒まず、去る者は追わない事なかれ主義で。けれど彼のスペック上言い寄って来る女性はある程度自分に自信がある人ばかり。
噂通りどんな女性と付き合っても、長くは続かなかった。 私は彼のそんな存在にはなりたくなかった。 だからこそ、入念に準備をしてきたのだ。