迷いの森の仮面夫婦
「あんた…結構行動力があって行き当たりばったりの癖に変な所で慎重よね…」
そんな言い合いを愛莉としていると、時刻は二十三時を回ろうとしていた。
毎週毎週暇さえあれば愛莉の所に通っている。 主に愚痴を聞いて貰うためだ。
お客さんがさっぱり来てくれないお陰で、お茶を飲む場所と化している。 四年以上もここに通い詰めているけれど愛莉が人気占い師になる兆しは全く見えない。
それでも趣味半分のこの仕事をしているのは、楽しいらしい。
私は占いなんて非現実的なものは信じないけれど、運命は信じている矛盾したタイプの女だ。
だから今日この日、夜更け過ぎから天気予報に傘マークがついていた金曜日。
意図せずとも彼がここへやって来たことも、運命の一種として今でも信じている。 私が愛莉の友人でなければ、ここに通い詰めていなければ彼に偶然出会う確率だってゼロだったわけだから。
「すいません、やっていますか?」
二十三時過ぎに占いの館に訪れたのは、泥酔して足元もおぼつかない海鳳だった。
雨で肩が少し濡れている。
病院にいる時みたく、きちんとしている彼ではなく、顔をわずかに赤らめて焦点もきちんと合ってはいなかった。 それでも彼が足を踏み入れた瞬間、直ぐに海鳳だと分かった。