迷いの森の仮面夫婦

そして「清々しい程の貪欲さは嫌いじゃない」と言ってくれた。
最初から全部は上手くはいかなかったけれど、一緒に居て楽な女性だとはアピールできたと思う。

彼はやっぱり優しい人だから、相手が本気で自分を好きになってしまうと申し訳なく思ってしまうのだ。 心や愛情を求められると、その期待に応えられない自分を責める。

その点私は上手に彼を騙せていたと思う。

彼と同じようにどうしても忘れられない人が居る。 そこに共感してくれた。
お互いに愛さない。 子供は作らない。 彼の条件を呑み込んで、私達は結婚を決めた。
海鳳にとっても、私さえいればもう誰も傷つけずに済むのだ。 そこが大きかったのかもしれない。

彼はお金には余り執着心がないらしく生活費も私に全て委ねてくれて、欲しい物があれば何でも言ってくれていい、と言った。

何はともあれ結婚までの半年間の時間を一緒に過ごし、彼の信頼を勝ち取ったのだ。
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