迷いの森の仮面夫婦

「それにしても海鳳はやっぱりモテるね。 そのチョコの山消費が大変そう」

山積みになったチョコレートを見やりながら言うと、「そんなん全部義理だよ」と彼は苦笑した。
そして「病院で働くの、居づらくない?」と気遣いの言葉まで投げかけた。

「全然絡みのなかった科のナース達まで私の事見に来るんだよ?」
可笑しそうにそう言うと、海鳳の表情が一瞬曇る。

自分の立場をよく理解しているのだ。 その上で私が意地悪されているのではないかと心配をしてくれているのだ。

本当に心が温かい人だと思う。どうしてそこまで人に優しくあれるのか、と不思議には思う。

「だ、大丈夫?俺のせいだよな…。ごめん」

「ナース達だけじゃないのっ!全然知らない清掃のおばちゃんとか!
おばちゃんって容赦ないからさ、すっごい大きな声で聞こえるように言ってくるの!
’早乙女先生はお医者さんのくせに目が悪い’って。  もう、笑っちゃう。確かに海鳳は眼科じゃなくって内科だしね」

大袈裟に言って、お茶らけて笑うとそれでも海鳳は少し苦しそうな顔をした。
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