迷いの森の仮面夫婦
嘘のない人、という言葉にどくんと心臓が鈍く動くのが分かる。
悟られないように、それを取り繕うように、無理やり笑顔を作った。
「上手い事言っちゃってさ。 私は海鳳よりも全然子供だから、本当はお喋りでうるさいって思ってるんじゃないの?」
お茶らけてそう言ったら、海鳳は真剣な顔をして首を横に振った。
「全然、寧ろ元気な雪穂を見ていると、疲れまで吹っ飛んでしまうよ。
自分が悩んでいた事なんてどうでもいいって思えるし、話していてとても楽しい。
君と結婚しようって決めたのはパートナーとして勿論最適だったのもあるんだけど、雪穂と過ごす時間は素直に楽しい」
曇りなき言葉に一瞬目の前が真っ暗になった。
私は海鳳に嘘をついている。 もしも私が本当に海鳳を愛していると彼が知ったら、彼は私とは一緒に居てくれないだろう。
だから嘘をつくのだ。
海鳳の職業が好き。何不自由のない楽な暮らしが嬉しい。同じような傷を抱えた者同士、違う誰かを重ねて抱き合う体温が愛しい。
心が違う人の所にあっても、目の前に海鳳が居てくれるならばそれだけで私はいいのだから。