ケーキ屋の一ノ瀬先輩は甘すぎる
私が一ノ瀬先輩を好きになったのは、入学してすぐのことだった。
「それでは今日はこれで終わります」
その担任の声とともに、クラスメイト達がいっせいに立ち上がって話し出す。
「ねぇ、今日どこ行く?」
「駅前に新しいカフェができたんだってー」
「なぁ、ここの問題さ…」
窓際の席からその光景を私は眺めて、それから一人、立ち上がった。
話しかけてくる人はだれもいない。
話しかける人も私には誰もいない。
中学に入学して早1週間。
幼なじみのさくちゃんが熱を出して以来、私はずっとボッチだった。
いや、さくちゃんがいた時だって、私にはさくちゃんしかいなかった。
さくちゃんにはたくさん友達がいたのに。
そんなむなしい気持ちを抱えながら、一人で昇降口を出る。
空はまぶしすぎて、太陽が見えなかった。
手に抱えた、さくちゃんに届けるお気に入りのノートを眺めて、ため息を吐く。
それからまた、歩き出したその時だった。
「きゃっ」
「わっ」
誰かに衝突して、全身に衝撃が走る。
それと同時におしりから、地面に落ちた。
その瞬間、私の手からノートが離れていく。
「いたたた…。ごめん大丈夫?」
相手の人が声をかけてくる。
その顔を見ようと、目線を上げた時、ノートがその人の足元にあることに気が付いた。
ノートの表紙には完全に足跡が付いている。
お気に入りのノートだったのに…。
絶望のような、そんな気持ちが胸の中に渦巻いていく。
今日は、ツイてない…。
「あぁ!ごめん、本当にごめんなさい。足跡…」
それに気が付いたのか男の人が必死に謝ってくる。
よく見ると、私と同じかそれより少しだけ背の高い男子だった。
黒髪がよく似合っていて、ほんわか優しそうな雰囲気を持っている。
「あぁ…。いえ、大丈夫です」
「いやいや、全然大丈夫そうな顔してないよ。えぇっと、そうだ!これ」
そう言うと、その男子はポケットから透明な袋にラッピングされたガトーショコラを手渡してきた。
「お詫び…と言ったらなんだけど。君、さっきもため息ついてたでしょ?これ食べて元気になってよ」
「これを食べて…?」
「うん、僕の夢はケーキを食べた人を幸せにすることだから」
そう言うと、向こうの方から声が聞こえてきた。
どうやら、男子をよんでいるかのような声だった。
「あ、それじゃあ僕行かなきゃ。本当にごめんね」
そう言うと、最後まで申し訳なさそうに腰をまげて去っていった。
それを見送ってから立ち上がって、もらったものを見る。
美味しそうなガトーショコラ。
あの人がつくったのかな?
でも、これで元気になってって…。
半信半疑のまま袋を開けてガトーショコラを口に入れる。
その瞬間、チョコレートの甘さとそれを引き立てるほのかな苦みが私を包み込んだ。
アクセントのオレンジピールが酸味を出して、くどさを消してくれる。
そして、そのままトロリと溶けていく。
…おいしい。
こんなおいしいガトーショコラ食べたことない。
それに…。
食べてから、さみしい心がぽかぽかと温かくなっていく。
まぶしかった太陽も今ならはっきりと見上げられる。
あの人、何者?
すごすぎる…。
その日をきっかけに、私はクラスメイト達に話しかけることができた。
どれもこれも、あの人のおかげだ。
その人があの一ノ瀬先輩だと気が付いたのはそれからしばらくした頃だった。
「それでは今日はこれで終わります」
その担任の声とともに、クラスメイト達がいっせいに立ち上がって話し出す。
「ねぇ、今日どこ行く?」
「駅前に新しいカフェができたんだってー」
「なぁ、ここの問題さ…」
窓際の席からその光景を私は眺めて、それから一人、立ち上がった。
話しかけてくる人はだれもいない。
話しかける人も私には誰もいない。
中学に入学して早1週間。
幼なじみのさくちゃんが熱を出して以来、私はずっとボッチだった。
いや、さくちゃんがいた時だって、私にはさくちゃんしかいなかった。
さくちゃんにはたくさん友達がいたのに。
そんなむなしい気持ちを抱えながら、一人で昇降口を出る。
空はまぶしすぎて、太陽が見えなかった。
手に抱えた、さくちゃんに届けるお気に入りのノートを眺めて、ため息を吐く。
それからまた、歩き出したその時だった。
「きゃっ」
「わっ」
誰かに衝突して、全身に衝撃が走る。
それと同時におしりから、地面に落ちた。
その瞬間、私の手からノートが離れていく。
「いたたた…。ごめん大丈夫?」
相手の人が声をかけてくる。
その顔を見ようと、目線を上げた時、ノートがその人の足元にあることに気が付いた。
ノートの表紙には完全に足跡が付いている。
お気に入りのノートだったのに…。
絶望のような、そんな気持ちが胸の中に渦巻いていく。
今日は、ツイてない…。
「あぁ!ごめん、本当にごめんなさい。足跡…」
それに気が付いたのか男の人が必死に謝ってくる。
よく見ると、私と同じかそれより少しだけ背の高い男子だった。
黒髪がよく似合っていて、ほんわか優しそうな雰囲気を持っている。
「あぁ…。いえ、大丈夫です」
「いやいや、全然大丈夫そうな顔してないよ。えぇっと、そうだ!これ」
そう言うと、その男子はポケットから透明な袋にラッピングされたガトーショコラを手渡してきた。
「お詫び…と言ったらなんだけど。君、さっきもため息ついてたでしょ?これ食べて元気になってよ」
「これを食べて…?」
「うん、僕の夢はケーキを食べた人を幸せにすることだから」
そう言うと、向こうの方から声が聞こえてきた。
どうやら、男子をよんでいるかのような声だった。
「あ、それじゃあ僕行かなきゃ。本当にごめんね」
そう言うと、最後まで申し訳なさそうに腰をまげて去っていった。
それを見送ってから立ち上がって、もらったものを見る。
美味しそうなガトーショコラ。
あの人がつくったのかな?
でも、これで元気になってって…。
半信半疑のまま袋を開けてガトーショコラを口に入れる。
その瞬間、チョコレートの甘さとそれを引き立てるほのかな苦みが私を包み込んだ。
アクセントのオレンジピールが酸味を出して、くどさを消してくれる。
そして、そのままトロリと溶けていく。
…おいしい。
こんなおいしいガトーショコラ食べたことない。
それに…。
食べてから、さみしい心がぽかぽかと温かくなっていく。
まぶしかった太陽も今ならはっきりと見上げられる。
あの人、何者?
すごすぎる…。
その日をきっかけに、私はクラスメイト達に話しかけることができた。
どれもこれも、あの人のおかげだ。
その人があの一ノ瀬先輩だと気が付いたのはそれからしばらくした頃だった。