言いましたが、 違います‼︎


森を吹き抜ける風の音も、鳥の囀りも聞こえてこない。

色づき始めようとしている木々も珍しいのかよくわからない鳥たちも目に入らない。

今までに体験した事のない不思議な感じ。


足が重たいし、足の裏がジンジンする。

膝はガクガクするけれど、まだまだ歩ける気がする。

「おーい、どこまで歩いて帰る気だぁ」

男に呼び止められて辺りを見回すと、駅が見えた。

「よく着いてきたな」

男はそう言いながら、自販機で買ったであろうミネラルウォーターをくれた。

受け取ると一気に飲み干す。

どこにでもすぐに手に入るミネラルウォーターだけど、格別に美味しく感じる。

「あぁ」

喉が鳴り、息がこぼれ出た。

「生き返る」

立ち止まったら、動けないほどの疲労感を感じる。
でも、それが生きている実感にも感じられた。

「ありがとう。助かったわ」

素直に心の言葉が口に出た。

男はクスクスと笑っている。

「なんなのよ」

不快感を露わにする。

男は

「さっきよりいい顔してる。いいだろ、山は」

自分用の缶コーヒーを飲みながら満足そうな顔をしていた。

意外といいやつじゃん。

こういう出会いを含めて、来て良かったのだろう。

ちょっと気分が腫れた気がする。
少しだけ前向きに考えられそうだ。

< 12 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop