言いましたが、 違います‼︎
いつも顔を出す村に立ち寄ろうとタクシーに乗り込む。
行き先を告げると運転手は走るのをやめた。
「あそこには行けない」
今は反政府の場所だから行けない。
運転手に頼み込み、村のギリギリの場所まで行ってもらう。
のどかな風景は変わらないのに、重たい空気が辺りを包んでいる。
「これ以上は無理だ」
運転手には残ってもらい徒歩で向かう。
火薬の匂いが鼻に着く。
何かに引き寄せられるように、村に向かった。
突然、引っ張られ後ろに倒れそうになる。
振り向くと、止まるように言った運転手がいた。
僕を腕を掴み走り出す。
「振り向くな」
銃弾が飛び交う中、転びそうになるのをなんとか堪えながら走る。
運転手が立ち止まる。
僕は上手く止まれずに転がった。
「死にたいのか‼︎」
運転手は僕の胸ぐらを掴みながら言う。
「お前は日本人だろ。だったら、日本に帰れ‼︎ここはお前のような奴はいる場所じゃない。下手な正義感で、首を突っ込むな‼︎」
運転手は僕を乱暴にタクシーに乗せると、そのまま空港へと向かい、僕をおろした。
「二度と足を踏み入れるな‼︎」
そこから、どうやって帰ってきたのか記憶がない。ただ呆然としていたに違いない。
その数日後、その国は地図から消えた。
きつい言葉を言いながらも、日本に帰してくれた運転手の顔や声、火薬の匂い、銃弾の音。
全てが僕の周りに留まっている。
いつもどんな時も。
ただ人と肌を重ねている時だけ、音が止まったように感じた。
それでも働かなければ生きていけないので、
仕事仲間から素材写真の撮影を回してもらうようになった。
どこどこのビル、こういう橋。木に止まっている鳥。荒波などなど、言われた写真を撮る。
なにも考えなくていい、純粋に写真と向き合っている時間が僕をいずれ癒してくれる。
そう思おうとしていた。