言いましたが、 違います‼︎
いつものように、いつものBarへ顔を出そうとすると店の前で呼び止められる。
可奈だった。
いつもの孤独感はなく、どことなくスッキリした顔をしていた。
話があると連れてこられたカフェ。
「これにサインしてくれない?」
そう言って一枚の紙を僕の前に出す。
認知届だった。
驚き可奈の顔を見る。
「あっ、別にどうこうして欲しいわけじゃないの。
ただこの子に父親がいるって事実が欲しいだけ」
右手を振りながら、笑って言う。
「大丈夫だって。養育費とか遺産とか欲しいって言わないように育てるから」
ケラケラと笑う可奈。
「夢物語でも、父親とちゃんと愛し合ってできた子供って言って育てたいだけだから」
自分に出来る事がある。
それだけでいい。
未来の出来事より今出来る事。
誰かの為に出来る事。
それだけでいい。
僕はペンを取りサインをする。
「これでいい?」
「ありがとう。連絡が入ったら、適当に話を合わせておいて」
屈託のなく笑う加奈の笑顔が、あの村の子供達の笑顔と重なる。
窓の外に目を向けた可奈が手を振る。
手を振った方を見れば、1人の少女は立っていた。
「あれ、私の妹の陽子(ヨウコ)よ。可愛いでしょ」
フッと鼻で笑う可奈。
「なんだかんだ言って心配で迎えに来たのよ。子供じゃないんだからね。まぁいいわ。行くわね。ご馳走様」
軽い足取りで店を出る可奈を目で追う。
大して持っていない荷物を陽子に持たせる。
クルクルと回るように軽やかに街の喧騒の中に消えていった。
女王様が女中を連れているようだった。