言いましたが、 違います‼︎
「大丈夫ですか?」
和の声に現実に戻される。
「少し酔った」
僕は水を一気に飲み、ボーイにおかわりを頼む。
「だから‼︎」
翔が話を続けようとしたが、和が止める。
「永太郎がいいって言うならいいじゃないですか」
「気になるじゃん‼︎美紗都ちゃんの前では聞けないだろ‼︎」
と食い下がる。
「それよりも2人の出会いの方が気になりますけどね」
和、お前もか!
「美紗都ちゃんのお手伝いをする事になった話は真波から聞いてますけど」
和は急に笑い出す。
不快な顔で和を見れば
「どんなクズな旦那だろうって、一言父親として医師として言ってやらないとって思って乗り込んだら、永太郎がいるから」
あの時の驚きは忘れません。
必死に笑いを抑えようとする和の姿に
「わかるわ」と笑いながら共感する翔。
僕も釣られて笑いながら
「お騒がせしました」と頭を下げる。
こうして、男達の夜は更けていった。
「ちょっと‼︎こんなところで寝ないでよ」
目を擦りながら、上を向くと慎太郎を抱いた不快そうな顔の美紗都ちゃんがいた。
「邪魔よ‼︎寝るなら、ベッドに行きなさいよ‼︎」
僕に文句を言いながらも、目が「風邪ひくわよ」と言っている。
思っている事が全て口に、顔に出る美紗都ちゃん。
文句を言いながらも、僕を受け入れてくれる美紗都ちゃん。
僕の心に長年染み付いていた思いを「よくある事」とあっけらかんに言い放つ美紗都ちゃん。
全てが愛おしく感じた。
あの日から、僕に纏わりついていた音が消えた。
それでも、時折戻ってこようとする音を「大した事ない」と美紗都ちゃんは笑ってくれるだろう。
お互い歳を取ったら、ゆっくりと僕の話を聞いてもらおう。
そういう約束だ。
絶対に聞いてもらう。