言いましたが、 違います‼︎
11
「根津さん、ちょっと今いい?」
斉藤部長に呼ばれる。
「ちゃんと待ってください」と自分の仕事にキリをつける。
「何かありました?」
斉藤部長の元に小走りで駆け寄ると
「専務がお呼びだよ」と言われ、戦慄が走る。
何もなかったかの様に仕事に復帰している私。
と言うよりも、色々あり過ぎて専務の存在を忘れていた。
相変わらず忙しくしていてようやく落ち着いたので、私の処分が決定したのだろう。
懲戒解雇だとして、土下座でもなんでもして自主退職を認めて貰おう。女は度胸だ!
そう何度も心に言い聞かせて、ノックする。
中から、ひょこっと坂本さんが顔を出した。
「根津さん‼︎待ってました‼︎」
予想外の歓迎に戸惑いながら、死刑台に登る気分で一歩一歩前に進む。
見たくて仕方がなかった専務の顔を見るのが、怖くて顔を上げれない。
さっさと謝って、土下座して自主退職にしてもらって、荷物もまとめて、三枝さんと斉藤部長にお礼を言って
恐怖を紛らわす為にこれからの行動に思いを馳せる。
大きく息を吸って、女は度胸。
散りゆく花は優雅に大胆に。
「その節は・・・ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」
勢いよく頭を下げる。
専務の、サイボーグ葉山の言葉を待つ。
沈黙が耐えきれない。
さっさと「クビだ」と言って欲しい。そうすれば「なんとか自主退職でお願いします」と言える。
何か言って!