政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「ありがとうございます」

グラスを傾けながらなんでもないように彼が言ってくる。
彼に拾われて、本当に恵まれていたと思う。
デザイナーとしての仕事も安定してきて、これからという時期。
もっと、もっとここで働きたかった。
でもそれも今日で終わり。
……いや。
スタートにするんだ。

二次会も誘われ行きたかったが、断った。
最後の夜だからといってあまり羽目を外すのはよくない。
立つ鳥跡を濁さず、だ。

マンションに帰ってきてベッドに倒れ込む。

「あー、楽しかったー」

私の自由は今日まで。
十五の誕生日、父とそう取り決めた。
それまではなにをしてもいいし、両親も極力干渉しない。
その代わり、二十五になったら父が決めた相手と見合いをして結婚する。
異論はなかったし、むしろこんな家庭環境で期間限定とはいえ自由を与えてくれた父に感謝した。

私の父は日本三大メガバンクのひとつ、『こうのフィナンシャルコーポレート』のCEOだ。
母は元大臣の娘で、伯父は現職の大臣。
従兄も議員という環境で、父は私の自分の力だけでやってみたいという希望を叶えてくれた。
ファッションデザイナーになりたいという夢も、追いかけさせてくれた。
これからは父にその恩を返すときだと思う。

それに私は、自分の夢を諦めたわけではない。
古手川課長には話したが、明日会う旦那様になる人を説得して続けていくつもりだ。

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