政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
話しすぎて喉が渇いたのか男からペットボトルを受け取り、鞠子さんは中身をごくごくと流し込んだ。

「そうですね、私はあなたが嫌いだというのだけはわかりました」

さっと鞠子さんの顔に朱が走る。
手を振り上げかけたが、男が近寄ってきて何事か耳打ちし、やめたようだ。

「そうでしたわ。
あなた、これを見てもまだ強情を張れるかしら?」

男が携帯を私の目の前に持ってくる。
ご丁寧にも画像をスライドさせて、何枚か見せてくれた。

「これがどうかしたんですか?」

「……え?」

予想外の答えだったのか、鞠子さんが目を大きく見開く。
しかし、画面に映し出されていた、古手川さんがあの日撮った写真はもうすでに零士さんは見ているのだ。
それでいまさら脅されても、別に困らない。
鞠子さんが古手川さんを陥れた張本人だと知って、怒りが湧いただけだ。

男がまた鞠子さんに近づき、耳もとで囁く。
小さく咳払いした彼女はそれで、動揺を治めたようだった。

「これを各方面にばらまくわ。
これでも、そんな平気な顔をしていられるかしら?」

あの写真を外部にばらまく……?
零士さんは私を信じてくれているし、すぐに疑惑を晴らしてくれるだろう。
しかし一度ついた疑いは、ずっと私に――零士さんについて回る。
彼に迷惑をかけるのは嫌だ。
けれどこれで零士さんと別れるというのは、あの写真は真実だと認めることにならないだろうか。
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