政略結婚のはずですが？～極甘御曹司のマイフェアレディ計画～
「このっ！」

一息に吐き出し終わると同時に、パン！と乾いた音が響き渡った。

「あなたなんかに、零士さんはふさわしくないのよ！」

彼女の手が私の頬を往復する。

……痛い。
でも、すっきりした。
これが私の、正直な気持ちだ。
零士さんに直接、聞かせられなかったのが惜しいけれど。

鞠子さんのビンタは感情をぶつけるものから、ただその行為を楽しむものに変わっていた。

……これ、いつ終わるんだろ。
あ、頬を腫らして帰ったら零士さん心配するだろうな……。
なんて言い訳したらいいんだろう……。

ぼーっとする頭で、そんなことを考える。
永遠に続くかと思ったそれがいつのまにか終わっているのに気づき、のろのろと顔を上げた。
そこには、鞠子さんの背後にその手を掴む零士さんが立っている。
それが……あの日に重なった。

「俺の清華になにをしているんだ？」

零士さんの片眉と共に語尾が不快そうに上がっていく。

「わ、私は、なにも」

鞠子さんを冷たく見下ろす零士さんはその怒りのせいか、いつもよりも大きく見えた。
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