政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
いくら隠したところで狭い世界だ、すでにあの件は広まっている。

……気持ち悪くて反吐が出る。

ここにいる誰もが、鞠子さんの立場になっていてもおかしくなかった。
それに彼女たちはライバルが減ったと喜んでいる。

「ここ、よろしいですか?」

纏わり付いてくる人々を振り切り、孤立している鞠子さんに声をかけてその横に座った。

「え、ええ」

彼女は見る影もなく、おどおどとしている。
あのあと、父親から激しく叱責されて家を出されたと聞いていた。
彼女はもう、十分に罰を受けている。
これ以上、彼女を貶める必要なんてない。

「陰でこそこそ言う人間なんてクズですよ。
こちらからお断りしてあげたらいいんです」

わざと周りに聞こえるように、大きな声で言う。
途端にぴた、と静かになった。

「え、ええ。
そう、ですわね」

驚いたように顔を上げた鞠子さんが、みるみる泣きそうになっていく。
とうとう耐えきれずにぽろりと涙が落ちた。

「あ、いえ。
これは、その」

慌てて誤魔化すように彼女は涙を拭っている。
私はそれに、気づいていないフリをした。
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