政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
パリのホテルに入ったのは夜の九時ぐらいだった。
今回も前回と同じホテルの部屋なので、朝食が楽しみだ。

「俺たちの結婚に」

「乾杯」

バルコニーのデイベッドで、零士さんとシャンパングラスを合わせる。

「見合いの日、きっと清華が驚くだろうと期待していたのに、それどころか忘れられていてショックだったんだ」

冗談めかして零士さんは言っているが、絶対あれは本気だ。

「その。
髪型と眼鏡が変わっていたので、気づきにくかったっていうか……」

それに十年もたてば見た目や雰囲気も変わる。
零士さんは父から私の写真をもらっていたらしいが、私はそうじゃないのだ。

「誕生日プレゼントの花束で、それとなく教えただろうが」

「うっ」

それについては返す言葉がない。
いまさらになって薔薇の花百八本の花言葉を調べたら、【結婚してください】だと出てきた。
そこからヒントがあったのに気づけなかった自分が情けなさすぎる。

「でも清華が初恋の人は俺だと言ってくれて、嬉しかった。
気づいていないのなら、もう一度俺に惚れさせてやると誓ったんだ」

「零士さん……」

眼鏡の向こうで眩しいものでも見るように目を細める彼と、視線を合わせる。
傾きながらゆっくりと顔が近づいてきて、唇が重なった。
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