政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「あー……。
私も仕事が恋人だったのでいないですね」

ははっ、と自嘲気味に笑いが口から漏れた。
父から恋愛を禁止されていたわけでもないし、将来の旦那様に操を立てていたわけでもない。
ただ、限られた時間の中で精一杯の成果を出したくてがむしゃらにやっていたら、そんな余裕はなかった。

「そうか」

零士さんはほっとしているようだけれど……なんでだろう?

「そう言えばこの結婚のために仕事を辞めたんだったな」

「はい、そうですが」

これは復帰していい……とかはないか。

「すまない、せっかく頑張っていたのに辞めさせて」

「えっ、あっ、頭を上げてください!」

真摯に彼から頭を下げられ慌ててしまう。
彼ほどの社会的地位のある人間の妻が、一般企業で一般社員として働いているなんて、体面が悪いのはわかっている。

「納得して辞めたので大丈夫です」

別に彼が悪いわけじゃない。
結婚と同じくこれも〝そういうもの〟なのだ。

「なにかやりたいことがあるならなんでも言ってくれ。
できるだけ実現できるように手配させてもらう」

レンズの向こうから私を見つめる彼の目は真剣だ。
それに予想外の申し出に驚いた。
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