政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
「零士様、おひさしぶりです。寿子(ひさこ)様はお元気ですか」

フランス語ではなく、流暢な日本語のスタッフが出迎えてくれる。
寿子とは零士さんのお母さんのことだ。

「ああ、おかげさまで。
母は今日は来たがっていたが、外せない用があってね。
代わりじゃないが、妻を」

さりげなく、零士さんは私の腰を抱き寄せた。

「少し前に結婚したんだ。
妻の清華だ。
これからは妻の服も……と言いたいところだが、彼女はデザイナーだからライバルになるかもしれないな」

器用に彼が、私に向かって片目をつぶってみせる。

……零士さんって私のこと、どこまで知っているんだろう?
それにしたってオートクチュール工房のライバルだなんて買いかぶりすぎだ。

「そんなわけで今日は敵情視察ってわけさ。
よろしく頼むよ」

「それはお手柔らかにお願いします」

零士さんの冗談かよくわからない言葉をさらり笑って流すなんて、スタッフはさすが慣れている。

席に案内され、零士さんと並んで座る。
美術館の地下に設置された特別ステージは、神秘的に見えた。

「……母はよく、ここで服を買うんだ」

零士さんが苦笑い混じりに耳打ちする。
私の母も高級ブランドの服は買うが、本物のオートクチュールは滅多に……というよりもほぼ、ない。
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