政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
十分くらい歩いて零士さんが私を連れてきたのは、街の中にある小さな教会だった。

「……こんなところに教会があるんですね」

私を降ろした零士さんと一緒に教会に入る。
小さいながらも歴史を感じさせ、素敵な雰囲気だった。

「穴場なんだ」

零士さんと並んで中を進んでいく。
午後の少し遅い時間だからか、誰もいなくてふたりきりだった。

「……清華」

祭壇の前で立ち止まった零士さんが私と向かいあう。

「俺と結婚してくれてありがとう」

ポケットから出したなにかを私の左手を取り、零士さんは薬指に嵌めた。

「零士、さん……?」

自分の左手薬指を見る。
そこには私が諦めた、指環が嵌まっていた。

「清華を絶対に幸せにすると、誓う」

そっと零士さんの手が私の頬に触れる。
午後の柔らかい日差しが、ステンドグラスから色とりどりの光を落とす。
その光に照らされた零士さんの顔を、ただ見ていた。

「……キス、していいか」

眼鏡の奥からうっとりとした目が私を見ている。
それに操られるかのように、こくんとひとつ頷いた。

「ありがとう」
< 50 / 252 >

この作品をシェア

pagetop